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「アオーレ長岡」が示した新たな市役所像

2012年10月16日 公開
2023年09月15日 更新

荒田英知(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センター長)

 今年4月、新潟県長岡市に市役所を核とした複合施設「アオーレ長岡」がオープンした。「全国初!『アリーナ』、『ナカドマ』、『市役所』が一体となった市民交流の拠点 シティホールプラザ」をうたい文句に、JR長岡駅前に建設されたこの施設は、従来の市役所のイメージを大きく変えることとなった。自治体のハコモノ建設には逆風が吹きがちな昨今であるが、アオーレ長岡はこれからの公共施設のあり方に一石を投じたといえる。

 

 アオーレとは、長岡の言葉で「会おうよ」という意味。最大5000人収容の「多目的アリーナ」、屋根つきの市民交流広場である「ナカドマ(中土間)」、そして「市役所」が一体となっており、「シティホール」という言葉がよく似合う。三棟の建物を大屋根で覆ってナカドマの空間を確保。地元産の杉の間伐材を壁や天井に張り巡らせている。さらに特徴的なのが、ナカドマに面した1階に議場が設けられたことだ。もちろん傍聴席もあるが、市民は議会をガラス越しに覗くこともできる。

 アオーレの建設構想は2006年に遡る。平成の大合併で、長岡市は、中之島町、越路町、三島町、山古志村、小国町、栃尾市、与板町、寺泊町、和島村、川口町の10市町村と合併。合併と地方分権に伴って事務量は増加し、手狭になった本庁舎は7か所に分散を余儀なくされていた。

 本庁舎の耐震性が低いことが決め手となって、長岡市は市役所の移転を決定。3か所の候補地の中から、駅前の厚生会館跡地を含む中心市街地が選ばれた。基本構想をもとに、市民ワークショップを開くなどして、「市民が主役の市役所づくり」がスタートしたのである。

 以来、6年をかけて完成したアオーレ長岡の特徴は「合わせ技」という言葉に集約できる。

 第一に、「市役所の移転」という直接の政策目的に加えて、「中心市街地の活性化」、「コンパクトシティ化」、「まちの顔づくり」、「市民の交流の場づくり」などを複合的に実現する効果をもたらしていることだ。合併自治体の場合、合併当初は周辺地域に対する配慮が優先される傾向があるが、ある時点からはまちの一体性を高めていく必要がある。アオーレ長岡によるまちなか創造は、こうした時間軸からみても妥当性が高い。

 第二に、「機能の複合化」がある。ハード面の複合化はいうまでもないが、ソフト面に関しても工夫が凝らされている。1階にある総合窓口は、旧庁舎で1階から3階に分かれていた住民異動、福祉、税金など身近な手続きがワンストップでできる。平日夜間や土日祝日も利用可能である。さらに「市役所コンシェルジュ」を配置して、利用者のよろず相談を受け持っている。また、市民協働センターや市民交流ホールが置かれ、さまざまな市民活動の舞台となっている。市民と接することの少ない部局は旧庁舎に残し、市民活動のスペースを優先したのだという。

 第三は、「財源調達の多様化」である。138億円とされる総事業費のうち、積み立ててきた都市整備基金から43億円を充てるなど、未来への投資のためにあらかじめ財源の準備を怠っていなかったことがわかる。さすが「米百俵」の土地柄である。さらに、市民公募債を発行することで市民の参画意識を高めることも狙い、15億円分が早々に完売している。

 自治体のハコモノ建設が厳しい目にさらされる中、市民の理解と参画を得ながらアオーレ長岡を完成にこぎ着けたのは、建築学科出身の森民夫市長の手腕に負うところが大きい。設計を担当した建築家の隈研吾氏は「ハコモノをさまざまな意味合いで反転させようと試みた」と市長の意を汲んでいる(『新建築』2012年7月号)。アオーレ長岡は、わが国が直面するハコモノ改革の中でもひときわ異彩を放つ存在といえそうだ。

研究員プロフィール:荒田英知☆外部リンク

 

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