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自民を超えられなかった民主党政権

2012年09月18日 公開
2023年09月15日 更新

永久寿夫(政策シンクタンクPHP総研研究主幹)

SNSの爆発的発展で政治そのものが変った

 こうしてみると民主党は政権運営の面においても政策運営の面においても、国民からノーを突きつけられた自民党とまったく同じ症状を引き起こしている。民主党政権が残された期間のなかでこの状態を払拭することができなければ、民主党はかつての自民党と同じ運命を辿る可能性が強い。次の総選挙で、国民の投票が再び自民党に向かうのか、あるいは国政政党として産声を上げた日本維新の会に向かうのか、それはよく分からないが、国民はまた政権交代を望むだろうということである。ただ、そこで考えてみたいのは、どの政党が与党の座を獲得したとしても、また同じことにならないかということだ。小泉政権後の自民、政権交代を果たした民主、いずれも政権運営を安定せることができず政策運営にも支障をきたした。ということは、その要因はそれぞれの政党の属性や歴代総理の能力以上のところにあるとも考えられるのである。

 その要因とは情報交流の爆発的発展ではないだろうか。日本のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の代表格であるmixi とGREE がサービスを開始したのが2004 年。アメリカ生まれのTwitter とfacebook の日本語版が使われるようになったのは2008 年。ブログや2ちゃんねるなどの電子掲示板を含め、人と人をネット上でダイレクトに結ぶ情報交換が現在の規模で可能になったのは、まさにポスト小泉の時代なのであり、それと政治の変質が無関係とは考えにくい。

 SNSの発展によって何が変わったかと言えば、誰もがほとんどコストをかけずに情報や意見を発信できるとともに、その受け手と直接的なコミュニケーションができるようになったことである。政治家は有権者とのコミュニケーションツールとして有効に使うようになるが、一方で有権者も自分の政治的意見を発露するツール、すなわち新たな政治参加の手段として使うようになった。結果として、政治家は極めて多くの人にダイレクトにつながることができる代わりに、彼らからもダイレクトに監視されるようになる。またSNSにおける世論形成に大きな影響力をもつインフルエンサーという人たちも登場し、政治家はそれを無視できなくなる。こうしたことが原因で、多様で個別的な利害を国全体の利害に転換して結論を出すという、政治に期待される重要な機能に障害が生じてしまったのではないか。別の言い方をすれば、政治家はネットの先にいる有権者と一体化してしまい、あるいはせざるを得なくなり、俯瞰した立場から政治を行えなくなったということである。
 

不安定な政治は今後も続く

 もちろんその傾向はこれまでにもなかったわけではない。族議員はまさに支持者の個別利害を代表しながら政治に参加する存在であり、それを解消することが選挙制度改革やマニフェスト選挙の目的の一つであった。しかし、SNSの発展が、それまで政治から距離を置いていた浮動票を巻き込むことになり、価値や利害のつながりをより多面的かつ流動的にしたのではないか。これまで投票行動にあまり影響がなかった外交や安全保障を含め、ありとあらゆるアジェンダごとに人と人がつながり、気に入らなければまた違うところとつながる。支持者を求める政治家はそれをみながら右往左往する。これでは価値と政策の共有を前提とする政党政治はおろか、代議制民主主義そのものが成り立たなくなっていく。その現象が、ポスト小泉の自民・民主の政権・政策運営にあらわれたのではないだろうか。

 いささか過激な仮説かもしれないが、もしこれが正しいとすれば、我われは何をなすべきなのだろうか。これまでの政党政治、代議制民主主義のあり方をそのまま維持しようとすれば、機能不全はさらに深刻化するだろう。といって、ネットを通じた直接民主制の導入といった単純な変革では、全体の整合性が取れなくなる恐れがある。代議制民主主義のメリットを維持しながら、新たな社会の変化に適合する民主主義のあり方とはいかなるものなのか。これは日本に限らず、多くの国々が直面する課題であるし、簡単に結論を出せるものでもない。ただ、ここで指摘したいのは、現在はまさに民主主義のあり方そのものが転換期にあるのであり、どの政党が与党になろうと、誰がわが国のトップになろうと、極めて不安定な政治のなかで政策を進めていかざるを得ないということである。それを意識しながら、今後の政治の展開に注目すると同時に、我われ自身の政治的行動も決めていきたいと思う。

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