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「休日を潰して家族サービスしてるのに!」 DV加害者が固執する“既成の家族像”

2023年11月06日 公開

石井光太(作家)

 

「自分の言葉」で考えることを放棄する加害者たち

なぜ、加害男性たちは配偶者に言葉による暴力を振るうのか。

どの世代にも共通するのが、加害男性が相手だけでなく、自分のことについても、言葉を適切に使いこなせない点だという。

赤の他人同士が夫婦となって家庭を築こうとすれば、言葉を尽くして細かなコミュニケーションを重ねつづけることが不可欠だ。どんな家庭を築きたいのか、そのためにお互いに何を補い合わなければならないのか、人生の浮き沈みの中でどのように役割を変えていくべきなのか。

そうしたことをきちんと話し合うには、日頃から相手の気持ちを深く読み取り、一歩先を予想し、慈しみのある言葉で表現する必要がある。それができて初めて、温かな家庭を維持することができるのだ。

しかし、言葉によって物事を深くまで感じ、考え、表現する術を持たなければどうなるだろう。幼児のケンカと同じように、大声でわめき立てて自分の意見を押し通すだけになる。

そのように頭ごなしに発せられる言葉は、建設的な対話を破壊し、暴力性の高いものになる。それがDVなのだ。

DVをするかしないかは本人の気質によるところもあるが、日本にはそれを助長する社会背景もあるという。中村氏は次のように話す。

「年配のDV加害者の場合は、家父長制の影響が見られることがあります。家の中で父親がすべての権力を持ってあれこれ命じる立場にあれば、奥さんの気持ちを一々考えることはなくなります。

言葉で奥さんの胸の内を想像し、丁寧な言葉で話し合うということがない。そうなると、父親がかける言葉は一方的なものになって、奥さんを傷つけることになります」

日本の家父長制は、江戸時代の武士や商人のように、男性だけが教育を受けて社会で活躍していた時代に生まれたものだ。家長の考え方が絶対に正しいとされ、あらゆることに対する決定権があった。

だが、今の時代は、当時とはまったく社会背景が異なる。にもかかわらず、日本では旧民法に代表されるような家父長制が太平洋戦争の前後までつづいていたことで、年配者の中には子供時代にそれを体験してきた者たちがいる。

彼らの一部が、無思慮にそれを今の自分の家庭に持ち込むことによって、DVが引き起こされるのである。

中村氏はつづける。

「若い世代には家父長制の影響はあまりありませんが、"既製品のストーリー"を安易に振りかざしたり、使ったりする態度がよく目につきます。

自分の考えや言葉がほとんどなく、社会のどこかで見つけてきた考え方や言葉を引っ張ってきて、それが正義だと思い込んで、パートナーを支配し、苦しめるのです」

 

「既製品のストーリー」の中で生きている自覚がない

社会の中には、「スーパーのレトルト食品やお惣菜は健康に悪いので、手作りの料理を食べるべきだ」とか「休日は家族サービスの日なので、事前に妻が計画や準備を整えなければならない」といった既製品のストーリーが存在する。

最近では、「共働きの夫婦は、仕事や家事を均等に行わなければならない」といったものもあるだろう。育休の日数、保育園の送り迎えの回数、掃除や食事の分担をすべて平等にするべきだといった考え方だ。

本来、こうしたことは参考の一つにとどめ、実際に家庭でどうするかは、それぞれの夫婦できちんと言葉で話し合い、自分たちなりのルールを決めていかなければならない。

平日は総菜やレトルトを使うとか、片方が仕事で多忙な時はもう片方が子供の送り迎えをするなどだ。家庭という人間同士のかかわり合いの中では、物事をすべてビジネスのタスクのような形で行うのではなく、状況に応じて融通を利かせることが欠かせない。

だが、DV加害者の中には、それをしようとせず、既製品のストーリーを安易にそのまま自分の家庭に当てはめようとする者がいる。彼らは家庭とはそうあるべきだと思い込んでいるので、配偶者が従わなければこう罵る。

「がんばって働いてきた俺に、どうしてレトルトの不健康なメシなんか出すんだ!」

「休日を潰して家族サービスをしようとしているのに、なんで弁当の準備をしていないんだ!」

あるいはこう声を荒げることもある。

「俺は毎日子守を3時間しているのに、お前は2時間半しかしていない。サボりやがって、どういうつもりなんだ!」

こうした言葉がDVになるのは衆目の一致するところだろう。

以前、私が取材した例だと、食事や休日だけでなく、共働きの配偶者に対して性行為もそれに当てはめていた男性がいた。

金土日はかならず性行為をし、終わった後はマッサージをさせると決めつけ、妻の体調や気持ちとは無関係に必ずそれを守らせようとするのだ。

もし妻が拒めば、「おまえは夫婦の関係を壊したいのか」「愛情が足りない」などと言いがかりをつけ、朝まで何時間も大声で説教をする。男性はそうすることが夫婦関係を維持するための正しい方法だと信じているのだろうが、女性にしてみればDVでしかない。

中村氏の言葉である。

「DV加害者は既製品のストーリーを家庭に持ち込んでいるとは考えていません。彼らは自分の頭で考え、自分の言葉を使っていると思っている。

だから、自分は正しくて、相手が間違っているんだという論理がどこまでも展開されてしまうんです。この部分を指摘して、間違っていることを自覚させなければ、なかなか前には進みません」

 

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