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『SPY×FAMILY』ヒットは心理戦がないから? 若者が“表層的な物語”にハマる理由

2022年06月18日 公開

渡邉大輔(映画史研究者・批評家)

 

「新たなセカイ系」の構造

このあたりの設定や描写に、ユニークなスパイ×家族物語としての『SPY×FAMILY』人気の「新しさ」を見出すことができるように思う。本作には、かつてのスパイものやファミリー・メロドラマの醍醐味だったサスペンスフルな心理戦やねちっこい人情劇は一切顔を見せない。

むしろ、登場人物たちのあらゆる「内面」の葛藤はもちろん、恋愛から結婚、出産、育児...などにまつわる、本来、家族をテーマにした物語で描かれるべき細々したプロセスが軒並みショートカットされ、きわめて表層的なコメディ展開だけが軽やかに描かれていく。

あえていうなら、この表層性や短絡ぶりは、物語中の時代設定や社会背景がほぼすっぽり抜け落ちて、「黄昏一家のドタバタ劇」と「東西世界の命運」の2つだけが前景化する、いわば「新たなセカイ系」とも呼べる本作の構造とも関係しているだろう。

そしていうまでもなく、そうした展開を、第一に擬似家族、また第二に娘(子ども)が他人(親)の心を読める(すなわち、大人による「内面」の葛藤劇があらかじめキャンセルされる)という奇抜な設定が支えているのだ。

『SPY×FAMILY』の以上のような特徴は、どこか昨今話題の「Z世代」と称される10~20代の若者たちのコンテンツ消費の慣習とも見事に合致するように思われる。

たとえば、『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)の稲田豊史がまとめるように、それらの若者たちは、配信サービスで関心のない箇所を倍速で飛ばしながら映画やアニメを観る最近の慣習に似て、心理的な負荷をあまりかけず、そうした要素をテンポよく「ショートカット」しながら、「楽しい」と感じる展開だけを効率よく消費するようになっているそうだ。

そう考えると、「実利」だけで集まった家族3人が、互いの「内面」(思惑)を阻害せず、すれ違いながらも、ポンポンとストーリーが展開していき、キャラ同士の掛け合いを見て楽しめる『SPY×FAMILY』もまた、その要素をしっかり満たしているように見える。ここにこそ、本作の人気の現代性があるのだろう。〈文中、敬称略〉

 

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