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学校防災マニュアル作成の手引きが強調するリスクマネジメントの考え方

2012年03月20日 公開
2023年09月15日 更新

亀田徹(政策シンクタンクPHP総研教育マネジメント研究センター長)

 文科省は、3月9日に「学校防災マニュアル(地震・津波災害)作成の手引き」(以下「手引き」)を公表した。
 手引きの大きな特徴は、防災マニュアルの継続的改善すなわちPDCAサイクル実行の強調である。東日本大震災において「今までに経験したことのない対応を迫られ、様々な課題が提示」されたという問題意識のもと、「実践的なマニュアル」に向けた改善の必要性が手引きでは繰り返し記述されている。

 学校における危機管理マニュアルの作成は法令により定められている。「危険等発生時において当該学校の職員がとるべき措置の具体的内容及び手順を定めた対処要領」を作成すると学校保健安全法は規定する。法令を受け、文科省は、学校安全参考資料(平成22年)を作成するなど安全教育や安全管理の進め方に関する指導を行ってきた。

 新たに作成されたこの手引きは、安全管理のうち地震・津波災害への対応に絞り、防災マニュアルを学校で作成する際の留意事項を示すものである。昨年9月に報告された文科省の「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議」中間とりまとめ等を踏まえ、「体制整備と備蓄」、「初期対応」、「引き渡しと待機」、「避難所協力」といった段階ごとにポイントを記載する。
 たとえば「引き渡しと待機」では「大規模な地震の場合は、発生後に通信手段が使用できなくなり、保護者と連絡がとれないことが予想されます」とするなど、東日本大震災の教訓を生かした内容となっている。

 手引きが重視するのはPDCAサイクルの実行だ。マニュアルを継続的に改善することで「“実践的なマニュアル”にしなければなりません」と訴える。訓練を通じてマニュアルが実際に機能するかどうかを評価し、明らかになった課題を解決するためマニュアルの改善を行う。前述の学校安全参考資料では安全管理の「評価」の部分に重きが置かれ、「改善」の必要性が十分に説明されていないとの問題があったが、今回の手引きではその点が改められている。継続的改善の強調は、リスクマネジメントの考え方に合致する。リスクマネジメントの基本はPDCAサイクルであるからだ。
 また、学校安全参考資料は、「評価の担当者は、項目へのかかわりを考慮し、教職員の中から適宜構成する。必要によっては、教職員全員が評価にかかわることもある」と、一部の職員のみで評価を行うことを原則としていた。しかしながら、マニュアルの評価・改善は、職員全員が参加して行うべきである。どのような対応がふさわしいかを職員一人ひとりがあらかじめ考えておかなければ、災害時にとっさの判断を下すことは難しいからだ。手引きは、「全ての職員の意見や気づきを反映する」、「一連のプロセスに全職員が関わる」とし、一部職員のみとする学校安全参考資料の原則を変更している。妥当な変更といえよう。

 今後の課題は、各学校におけるPDCAサイクルの確実な実行である。というのは、これまでも防災マニュアルの作成について指導が実施されてきたにもかかわらず、「本当に活用できるのか」と思わざるを得ないような内容のマニュアルしか準備できていない学校もあるからだ。
 確実な実行には、教育委員会による支援が重要だ。各学校の見直し状況を集約し他校に提供する、職員全員が参加してマニュアルの見直しを進める効果的な方法をアドバイスするなど、評価・改善を促す丁寧な指導を教育委員会は行うべきと考える。

 子どもの命を守るには、日頃からの備えが欠かせない。防災マニュアルのPDCAサイクルを確実に実行するための努力を学校と教育委員会に望みたい。

 

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