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正念場迎える国の出先機関の地方移管

2012年02月24日 公開
2023年09月15日 更新

荒田英知(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センター長)

民主党政権が進める「地域主権改革」の柱の一つに、国の出先機関の地方移管がある。2009年の政権交替時のマニフェストに「国の出先機関の原則廃止」を掲げ、2010年にまとめた「地域主権戦略大綱」でもその方針は貫かれた。その後の「アクションプラン」で、2012年の通常国会に必要な法案を提出し、2014年には地方移管を実現するとしている。消費税の増税をはじめ難問が山積する今国会で、果たして実現は可能なのであろうか。

出先機関の廃止後、その事務は地方に移管されることになるが、府県にまたがる地域ブロックで実施されていた事務については新たな「受け皿機関」が必要になる。これに最初に名乗りをあげたのは、2010年に関西の7府県が設立した「関西広域連合」であった。

同連合は「なぜ国の出先機関の地方移管が必要か」について、次の3点を掲げる。第1は、議会などのチェック機能がないため「住民ガバナンスの欠如」、つまり自律的な統治がなされていないという点。第2は道路、河川、産業振興など府県との類似事務が多く「国と地方の二重行政」になっているという点。第3が、国の出先機関は「省庁毎の縦割り行政」に分かれており、地域ニーズに対応できていないというものである。

一方、府県による広域連合がこれらの指摘に応えることができるかには課題も残る。関西広域連合の場合、奈良県が参加を見合わせたために、このままでは国の出先機関の範囲との不一致が生じてしまう。事務の委託などで解決が図られることになろうが、複雑な仕組みは望ましくない。同様に、広域連合には議会が置かれるものの、実際の意思決定には全ての構成団体の議決が必要となる。ガバナンスという課題に広域連合が万全に応え得るかはなお工夫の余地があると言わざるをえない。

そこで注目されるのが、2010年に九州地方知事会が合意した「九州広域行政機構」である。これは、当初から九州7県に枠組みを固定し、対応する九州ブロックの出先機関の事務を「丸ごと移管」することを目指すものだ。知事連合会議と議会代表者会議によってガバナンスを担保するとしている。知事会の動きに各県議会も呼応し、福岡県議会が各界に呼びかけた「九州の自立を考える会」が設立されるなどして気運が盛り上がっている。

九州広域行政機構のような受け皿機関を設立するための特例法案は3月にもその骨格が示され、5月には国会に提出されると報道されている。これを受けて、2月4日には四国4県が広域連合の設置を決めるなど、受け皿機関づくりは全国に広まる勢いである。しかし、ここに来て国の出先機関がなくなることに対する不安感を表明する自治体や関係団体も出てきている。これは過去の地方分権の経過の中でも再三見られた動きであり、国がそう仕向けていると深読みできなくもない。出先機関移管の成否は、「地域のことは地域で決める」という基本理念を、地域が一枚岩となって共有できるかにかかっている。

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