2022年03月14日 公開
2024年12月16日 更新
大ヒット漫画・アニメ『鬼滅の刃』『呪術廻戦』。2つの作品に見られる意外な共通点とは、『呪術』が題材とする「呪い」とは何か――。シャーマニズムや異界・妖怪研究の第一人者で、国際日本文化研究センター名誉教授・元所長の小松和彦氏が、両作で描かれる世界観とともに考察する。
聞き手:Voice編集部(中西史也)
※本稿は『Voice』2022年4⽉号より抜粋・編集したものです。
――小松先生には本誌で以前、大人気漫画でありアニメ化もされている『鬼滅の刃』の現代的意味について、お話しいただきました(『Voice』2021年3月号)。同作と並んで昨今話題となっているのが、やはりアニメ化も絶大な人気を博している漫画『呪術廻戦』です。2月には映画『劇場版 呪術廻戦0』の興行収入が100億円を超えるなど、破竹の勢いでヒットを続けています。先生の研究対象でもある「呪術」や「呪い」を題材にしている作品ですが、ご覧になりましたか?
【小松】アニメ版は観ましたが、原作漫画までは読んでいないんです。『鬼滅の刃』はアニメが面白くて漫画も読んだのですが、正直にいえば、『呪術廻戦』にはそれほどのめり込めませんでしたね(苦笑)。
――そうでしたか。アニメ版は具体的にどんな感想だったのでしょう。
【小松】ひと言でいえば、日本版の『ハリーポッター』だと思いました。『呪術』は主人公とその仲間たちが呪術高等専門学校で成長していく物語で、ホグワーツ魔法魔術学校を舞台にした『ハリーポッター』の展開と非常に似ている。
もちろん、前者は日本的な歴史に基づき、後者は西洋的な文脈を汲んでいる点などは違います。また、『呪術』には呪霊という妖怪のような存在が多数登場しますが、そのバリエーションの豊かさには素直に感心しましたね。
――『呪術廻戦』では、「呪い」とは「人間から流れ出た負の感情や、それから生み出されるものの総称」とされています。小松先生には『呪いと日本人』(角川ソフィア文庫)という著作もありますが、そもそも呪いとはどう定義できるものでしょうか。
【小松】『呪術廻戦』での「呪い」は、本来の定義とは微妙に異なります。同作で描かれているように、「呪い」が負の感情から生まれるのは間違いありません。
一方で、その源は人間にかぎらず、他の動物や植物などあらゆるものも含まれます。すべてのものに魂が宿っているという考えこそ「アニミズム(精霊信仰)」であり、かつての日本人はあらゆるものに喜怒哀楽が備わっていると考えてきました。
喜怒哀楽のなかでも、怒りの感情が究極的に歪んだかたちが呪いにつながります。怒りの原因となった相手に対して、何とかして攻撃したい。でも、直接手を下すことは憚かられたり物理的な距離が離れたりしている。そんなときに、神秘的な手法で相手に危害を加える行為こそが「呪い」なのです。
――なるほど。では、「呪い」と「呪術」の意味は異なるのでしょうか。
【小松】「呪術」とは、神秘的な方法で何かを実現しようとする行為全般を指します。「呪い」が相手に危害を与えようとするマイナスの感情から発露しているのに対し、「呪術」は誰かを救うことをはじめ、プラスの感情・目的が伴うこともある。
つまり、「呪い」は「呪術」の一形態にすぎないということです。先ほど『呪術廻戦』と『ハリーポッター』の設定が似ていると申し上げたように、「呪術」は「魔術」と同義と捉えて差し支えありません。「魔術」にも、良い目的で使われる「白魔術」と悪い目的で用いられる「黒魔術」がありますが、「黒魔術」に近いのが「呪い」でしょう。
更新:12月27日 00:05