Voice » 社会・教育 » 富士山が噴火したら、東京都民はどの方角に逃げるべきなのか?

富士山が噴火したら、東京都民はどの方角に逃げるべきなのか?

2022年03月11日 公開

安宅和人(慶応義塾大学環境情報学部教授・ヤフー株式会社CSO)

 

大災害の「最後の砦」は自衛隊と米軍

ここまで述べてきたように、国レベルの災害対応はデジタルの活用が肝になる。とはいえ、もちろんリアル空間における対策も怠るべきではない。リアル空間での方策としては、以下の三つを提言したい。

一つは無電柱化の加速である。火山の噴火で火山灰が降り注いだり、今後、温暖化に伴い、環境省の予測どおり最大風速70mを超える暴風雨が襲えば、町中にむき出しに立つ電柱は危険だ。ガイシ(碍子:電気を絶縁して電線を支えるための器具)の機能不全による停電・漏電リスクに加え、倒壊・二次的な被害をもたらす可能性が高い。道路上に張り巡らされた電線類をとくに首都圏と都市部は早期に地下に収容し、電柱を撤去するべきだ。

ところが、全国の無電柱化の取り組みは迅速に進んでいるとは言い難い。国土交通省は、2021~25年度までの5年間で、全国でおよそ4000kmの区間の電柱をなくす新たな計画をまとめたものの、一方で毎年およそ7万本の電柱が新たに設置されているという。

他方で、東京都が2021年2月に「無電柱化加速化戦略」を策定し、完全無電柱化完了を20年前倒しして2040年代の完了をめざしている点については評価できる。とはいえ、もともとガス灯を電灯に換える時代からパリやロンドンが無電柱化率100%を達成しているのに対し、東京や大阪ではいまだに10%にも満たない。

無電柱化政策を長年訴えてきた東京都の小池百合子知事ですら、都道以外に大きく進められないところをみると(都道は6割終了)、道の工事では毎日埋め戻さないといけないという法律によるコスト増や、電線のU字溝配置を容易にする法的整備が足りていないなど、基礎自治体へのインセンティブ設計が不足している可能性が高い。国民への啓蒙を進め、現実的かつ可及的速やかに日本全国で無電柱化の動きをさらに加速させるべきだ。

二つ目は、自衛隊と米軍の連携強化である。多くの読者は、東日本大震災が発生した翌日から開始された「トモダチ作戦」は記憶にあるだろう。災害救助・救援および復興支援のために、米軍兵士24,000人が投入された一大オペレーションである。同盟国とはいえ他国のために身命を賭して尽力してくれた米軍の皆さんには頭が下がる思いだ。

大型の災害時には消防と警察だけの対応では限界がある。そこで「最後の砦」となるのが自衛隊と米軍だ。しかし自衛隊の関係者によると、自衛隊と米軍のあいだでは装備や道具の互換性がない部分が相当に見受けられるという。同盟国であるならば、オペレーションの形式的な面で齟齬のないようにシームレス化を図り、有事の際にスキが生まれないように努めるべきだろう。

 

防災省の創設という選択肢

三つ目は、防災における指揮系統の統合だ。現在、防災の所管は内閣府防災担当だが、国土交通省やその外局の気象庁、総務省の外局の消防庁、さらに実働部隊の防衛省や警察庁など、多くの省庁にまたがっている。有事には迅速な意思決定が何よりも求められる。

現状のように災害対応の関係機関が混在していては、スピーディな決断を妨げてしまう。ほぼすべてが首相直轄案件となってしまう可能性があるということだ。

そこで、災害対応を一元化する「防災省」を創設するのも一案だろう。2021年9月には、菅政権の下でデジタル庁が発足した。司令塔が明確に存在することで、日本のデジタル化の取り組みは一段加速したように感じる。

もちろん、たんに組織という「箱」をつくればいいという話ではない。少なくとも有事における決断が遅延することのないよう、災害対応の役割分担を明確化するべきである。

そもそも現在も内閣府特命担当大臣の防災担当が存在するが、これもじつは必置ではない。2001年に特命担当大臣の制度が導入されて以降、歴代政権は一貫して防災行政を担当する特命担当大臣を設置してきた。

しかし、温暖化の進行、太平洋沿岸地域の地殻活動の活性化に伴い、今後災害が増える可能性が相当に高いなか、有事下の国家がサバイブするうえで最重要機能の一つである防災担当が、慣例によって位置づけられている現状は望ましくない。

その意味でも、防災省もしくは特別な統合機関、すなわち首相と首長を力強く支えてディレクションする機構の設置が必要だといえるだろう。

仮に防災省が創設された場合、防災大臣に求める条件として、(1)災害に関する知見・感覚がある、(2)迅速かつ強力な意思決定を厭わない、(3)官邸のみならず実働部隊を出す防衛省や警察庁にも顔がきく、などが挙げられる。こうして要素を挙げたところで、僕の頭のなかにある人物がふと思い浮かんだ。現在、自由民主党広報本部長を担っている河野太郎氏だ。

河野氏は内閣府特命担当大臣の防災担当を務めていた2016年4月、熊本地震で官邸オペレーションの陣頭指揮に当たった経験がある。また菅政権では新型コロナウイルス感染症ワクチン接種推進担当大臣の任を担い、ワクチン接種の普及速度を大幅に加速させた。

さらに防衛大臣や国家公安委員長を歴任しており、防衛省と警察庁双方に深く馴染まれている稀有な存在だ。加えて外務大臣の経験もあり、自衛隊と米軍との連携においても心強い。

有事の際には、リーダーの陣頭指揮の如何によって国民の生死が左右される。つまり、政治家個人の力量が問われる局面ということだ。

一方で、「ディザスター・レディ」な社会を構築するうえで、属人的な要素に頼り切るのではいかにも心もとない。その意味でも、「デジタル・ツイン」のシステムや防災省の創設など、意思決定の土台となる仕組みが重要なのだ。

ウルトラマンのようなヒーローに頼らずとも、危機を乗り越えられる社会。そんな国家の在り方こそが、これからの「シン・ニホン」に求められる姿なのではないだろうか。

Voice 購入

2024年8月号

Voice 2024年8月号

発売日:2024年07月05日
価格(税込):880円

関連記事

編集部のおすすめ

withコロナで業態は変えるべき? ビッグデータは「都心から郊外へ」を示した

安宅和人(慶應義塾大学環境情報学部教授・ヤフー株式会社CSO)
×