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富士山が噴火したら、東京都民はどの方角に逃げるべきなのか?

2022年03月11日 公開

安宅和人(慶応義塾大学環境情報学部教授・ヤフー株式会社CSO)

東京

東日本大震災から11年が経った。今年1月にはトンガの海底火山が大噴火するなど、自然災害はますます激甚化している。

我々は何に目を向け、自らの命を守るべきなのか。慶應義塾大学環境情報学部教授・ヤフー株式会社CSOで、政府の「デジタル・防災技術ワーキンググループ 未来構想チーム」座長を務めた安宅和人氏が、人類のサバイバルについて語る。

※本稿は『Voice』2022年4月号より抜粋・編集したものです。

 

富士山大噴火の際は北に脱出せよ

僕たちは来る大地震や火山の大噴火に対して、どのように備えるべきなのか。残念ながら、個人レベルでできることは限られている。少なくとも、脱出用の丈夫な靴は用意しておいたほうがいいだろう。

もちろん、非常食などの防災グッズも準備するに越したことはないが、たとえば富士山大噴火の際、自宅に「籠城」するのは得策とはいえない。3時間で基礎インフラが止まる可能性が高いうえ、火山灰の状況は日に日に悪化し、ついには救助隊も足を運べない事態になりかねないからだ。電気・水道が止まり、物流が停止してしまえば、自宅はただの「箱」と化してしまう。

また、重要なのは有事の際のシミュレーションを平時から行なうことだ。家族で暮らしている人は、家族全員と日ごろから災害対応を共有しておく。かくいう僕自身も、富士山噴火が起きた際にどう行動するのかについて、家族と認識を共有している。

首都圏在住者の場合、噴火後にまずやるべき行動は「北に脱出せよ」だ。先ほども述べたように、富士山噴火後は首都圏の大半が被害を受けるが、南は海であり、西はもちろん東方面にも偏西風からの逃げ場はない。ならば、状況が悪化してインフラが完全にストップする前に、とにかく北に逃げることで混乱から免れ、サバイブできる確率は上がる。

 

行政は国民の位置情報を把握すべき

一方、国レベルで行なうべき備えについても、僕は以前に本誌で行なった緊急連載「ヒューマン・サバイバル」(2021年5月号~7月号)で述べてきた内容にも重なるが、いくつか指摘できる。以下は噴火のみならず地震や豪雨といった災害に共通する施策であり、企業にとっても参考になるだろう。順を追って説明していこう。

まず非常に重要なのは、首都機能のバックアップを用意しておくことだ。たとえば、富士山大噴火が起きて東京全域が停止するならば、政治の意思決定の場である永田町や霞が関も当然、無傷では済まない。

庵野秀明監督の映画『シン・ゴジラ』では、ゴジラの襲来によって首都機能を立川(東京都)に移す様子が描かれているが、富士山噴火では立川は都心よりはるかに火山灰や噴石の被害を受ける。いざというときのために、首都機能を代替できる場所を埼玉よりも北など降灰・停電リスクの低い地域にも選定しておく必要がある。

二つ目は、現実世界の事象を気象・地象のみならず、インフラ、人の所在、人命救助、物流に至るまで現状を把握し、近未来をシミュレーションできる多層構造な「デジタル・ツイン」の実現だ。

すなわち、政治家が有事において、どの場所にいてもリアルタイムに状況を把握し、意思決定を行なえるシステムの構築である。僕が座長を務めた政府の「デジタル・防災技術ワーキンググループ 未来構想チーム」で、まさに提言した構想である(令和3年5月発表)。

三つ目は、こちらもデジタル防災で提言した内容だが、有事に被災地域の国民の所在を自衛隊・消防・警察が把握できるシステムづくりである。

国民が「有事には」自らの位置情報を行政と共有できるように設定しておくことで、いざ危機的な状態にあるときに救出場所がわかるようにするということだ。たとえば、地震が起きて被災者が瓦礫の下敷きになってしまった場合、その人の生死を分けるのは救出のスピードだ。

そのときに、個人の位置情報を正確に共有するアプリをダウンロードしていれば、迅速かつ効率的に救助できる。民間でLINEのようなライフライン的なアプリに機能実装しておいてもよく、国側のワクチン接種証明アプリに機能を付加することも考えられる。

また、もしも被災の過程でスマホを紛失してしまっても、直近の使用履歴から「この人は0時0分0秒までこの地点にいた」とわかれば、大よその移動ルートが予測できる。正確な位置情報の共有は、多くの尊い命を助けることにつながるのだ。

こうお話しすると、「政府に個人情報を握られるなんて嫌だ」という反論が飛んでくるかもしれない。大切なのは、行政が個人の位置情報を実際に活用するのは、有事に限定するということだ。

あくまで個人の端末側のアプリ設定でオプトイン(ユーザーの許諾なしに実施しない方式)的に共有の内容を変えられるようにする。政府は国民の命を守ることが使命であり、緊急事態で迅速に救助活動できるような法整備を進める必要がある。政治家には、国民から反発を受けることも覚悟のうえで「あなたたち一人ひとりの命が大切だ。何としても助けたい」というくらいの気概をもってほしい。

たしかに、個人のプライバシーに関わる法整備は大きな議論を呼びうるが、このような目的でかつオプトイン方式であれば、十分に理解は得られると考える。日本でもCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックを経て、以前よりもこの種の課題を忌避しない風潮が醸成されてきたように思う。

国民の命を守るために何が最善手なのか、政治家の責任はもとより、僕たち一人ひとりが真摯に向き合うべき問題である。

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