――本作は、晴明と博雅が徳子姫を救い出すために奮闘し、人間の弱い部分を癒やしていく物語です。依然として閉塞感の漂うコロナ禍に示唆を与える内容だと感じました。三宅さんは本作の今日的意味をどう考えていますか。
【三宅】このタイミングで上演する舞台だからこそ伝えられる何かがあるのではないかと思っています。昨年は大沢たかおさんが『INSPIRE 陰陽師』、中村倫也さんが『狐晴明九尾狩(きつねせいめいきゅうびがり)』でそれぞれ安倍晴明を演じられています。
そのあとに僕が演じることで、また新たな晴明像をお客様に楽しんでいただけたら嬉しいです。
また最近は『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』など、鬼や呪術を題材にした作品がブームになっています。そうした「目に見えないもの」の力は、今作にもたびたび登場します。
人の情念やそこに宿る力は、平安時代だけではなく現代にも生きていると思います。
――『鬼滅の刃』など他ジャンルの人気作から、舞台上で演じるうえでの気づきを得ることもあったのでしょうか。
【三宅】僕は「目に見えないもの」の力を信じるタイプなので、『鬼滅』にも『呪術』にも興味をそそられました。たとえば『鬼滅』では兄妹の絆が描かれていますが、『陰陽師 生成り姫』でも、兄妹ではないけれども晴明と博雅の絆が描かれています。
また、人を想う気持ちでいえば、徳子姫を慕う博雅の想いは「たとえお顔の皺が増え、頬や腹の肉がたるみ、髪の艶も失せておいででも――昔と変わらず、いや、12年前よりももっと愛おしく思うだろう」という台詞に表れています。そこまで誰かを真っすぐに想える人はなかなかいないでしょうし、僕もそういう人でありたいと思います。
――鬼化する徳子姫を鎮めようとする際、博雅が吹く笛の音が物語の鍵になります。人びとの心を癒す音楽の力を感じる部分もあったのではないでしょうか。
【三宅】もちろん音楽の力は素晴らしいものですが、本作に関していえば、むしろ博雅と徳子姫の人物像や関係性が共鳴する要素が大きかったのではないでしょうか。博雅には自然界の些細な音や動きを感じ取る繊細さがあり、徳子姫は飛天という稀少な琵琶の使い手です。
そんな二人が鳴動する場面は、楽器の音色とともに堪能していただけるはずです。
――先ほど三宅さんもお話しされたように、安倍晴明はこれまで多くの俳優が演じてきた人物です。過去の作品と比べられるプレッシャーはありませんでしたか。
【三宅】なかったといえば、嘘になるかもしれません。観る方によってはどうしても「安倍晴明といえばこの人」というイメージがあると思うので。
でも僕は、必要以上に他の作品との違いを気にすることはありません。もちろん夢枕獏さんの原作ファンの方がいらっしゃいますから、原作の世界観は大切にしなければいけないと思っています。そのうえで、自分なりの安倍晴明像をお届けしたいというのが、いまの率直な思いです。
舞台『陰陽師 生成り姫』
原作:夢枕獏(文春文庫『陰陽師 生成り姫』)
脚本:マキノノゾミ
演出:鈴木裕美
出演:三宅健、音月桂、林翔太、姜暢雄、太田夢莉、佐藤祐基、市川しんぺー、岡本玲、佐藤正宏、木場勝己
更新:11月22日 00:05