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「バイデン、どうぞ僕らを入れてくれ」アメリカへの“不法越境”を考える人びと

2021年06月03日 公開
2022年03月10日 更新

渡辺惣樹(日米近現代史研究家)

 

死の密林、ダリエン地峡を越えて

バイデン新政権は、直ちに国境の壁建設を停止し、不法移民1100万人にいかにして市民権を与えるかに知恵を絞り始めた。不法移民に「優しい」政策への変更は不法越境を考える人びとにたちまち伝わった。

1月には、ホンジュラスで数千人規模の移民キャラバン隊が編成され、米国国境をめざした。

米国に不法侵入を図るものは中南米諸国からだけではない。遠くアフリカ(カメルーン、コンゴなど)、アジア(インド、バングラデシュなど)からもやってくる。

彼らはまず、入国に何のお咎めもない(書類不要の)エクアドルに入る。そこから陸路北に進み、アメリカ・メキシコ国境をめざす。彼らの旅の最大難所は、コロンビアとパナマの間に広がる死の密林、ダリエン地峡(Darien Gap)である。

南北アメリカ大陸は、21世紀になっても車でアラスカからチリまで走ることはできない。ダリエン地峡にいまだに道路が通じていないからである。簡易な道路建設さえも拒むこの地峡には、密林と沼沢、毒蛇や毒虫に加え、追剥(おいはぎ)盗賊もはびこる。それでもオバマ政権末期の2015年から16年、およそ6万人がダリエン地峡を越えた。

「パナマ・コロンビア国境(ダリエン地峡)で起きていることは、世界で起きている事件に連動している。彼ら(不法移民)は、豊かに生きる夢を持ってやってくる。出身国ではけっして実現できない最低生活を実現する夢である」(ヨハンナ・ナバス:コロンビア・カトリック大学、*1)

これからどれほどの人間がダリエン地峡を越えてくるのかわからない。アメリカ・メキシコ国境で拘束されれば、「家族は政治的な迫害で皆殺しになった。国に帰れば殺される」と答えることを決めている。政治亡命であると訴えればバイデンの「優しい」移民政策が何とかしてくれるからである。

不法移民への「優しさ」は不法行為を助長する。3月初め、キャラバン隊第一陣がアメリカ・メキシコ国境付近に現れた。彼らの多くが「バイデン:どうぞ僕らを入れてくれ(Biden:Please Let Us In)」と書かれたTシャツを着ていた(*2)。予想通りの展開である。

*1:Panama sees surge in migrants crossing perilous Darien Gap, Fox News, May 16, 20

*2:Photos: Migrant group wearing Biden shirts try to cross US/Mexican border, American Military News, March 04, 2021

 

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