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収容所に響き渡る“女性の悲鳴”…悪化する「ウイグル人権問題」の実態

2021年05月20日 公開
2021年07月29日 更新

福島香織(ジャーナリスト)

 

横行するジェノサイド

BBCをはじめとする西側メディアがたびたび引用するのは、ドイツの中国学者、エイドリアン・ゼンツ氏が中国の公式統計や研究を整理して報告した二つのリポートだ。一つは2020年6月29日に出された「中国政府の新疆ウイグル族出生率抑制キャンペーン:強制避妊、強制堕胎」。

ここでは、ウイグル人口の集中するホーテン、カシュガル地域の出生率が2015年から2018年に至るまでのあいだで60%も激減していることなどが、公式統計を根拠に指摘されている。

また、2015年から2018年のあいだに少なくとも200万人の漢族を中国各地から新疆地域に移民させ、とくにウルムチや新疆生産建設兵団地域におけるウイグル人の人口比率を下げようとしていることなどを挙げて、中国政府が政策としてウイグル人の種族絶滅、つまりジェノサイドを目的としていると訴えた。

このリポートが、米国のポンペオ前国務長官が中国のウイグル弾圧をジェノサイドと認定する大きな根拠の一つとなった。

もう一つのリポートは、昨年12月に出された「新疆強制労働:綿花摘みのための少数民族の労働移動と労働派遣」である。これは2019年12月に中国天津市の南開大学が出した「新疆ホーテンにおけるウイグル族労働力移転による貧困支援工作報告」をもとに、ゼンツ氏なりの解釈と補足調査を伴ったリポートだ。

2019年におよそ57万人のウイグル人労働者が、「脱貧困」の建前で新疆生産建設兵団地域の綿花農場など国有農場に労働力として動員されていることが強制労働に当たり、新疆地域のウイグル農村の余剰労働力160万人が労働搾取のリスクにさらされているという警告を発したものだ。

この元になる南開大学のリポートは誤ってネット上に公開されたと考えられ、いまは削除され見ることができなくなっている。

このゼンツ氏の二つのリポートについて中国当局は、事実を曲解、捏造していると批判している。だが、その後、BBC、APなど欧米メディアが周辺取材をし、この二つのリポートの信憑性を高める報道を行なっている。

現在、新疆の強制収容施設、再教育施設、職業訓練施設にどれほどの人たちが収容されているかはわからない。2018年当時、100万人とも、のべ数百万人とも推計されていたが、それを誰も証明することはできない。

また中国当局も、強制収容の事実がない、職業訓練施設であり、自由に出入りできると主張しているものの、それを証明する努力はしない。

強制避妊も強制労働も、中国側は「ウソだ、彼らが自分から希望してやっていることだ」と主張するが、言論の自由のない監視社会での「本人の希望」に、どれだけの説得力があるのだろう。

西側メディアが新疆ウイグル自治区に取材に入ると、執拗な尾行、妨害に遭う。この事実一点をとっても、中国の主張に説得力がもてないのだ。

国連のジェノサイド条約に定義されているジェノサイドとは、以下である。

(1)集団構成員を殺すこと。
(2)集団構成員に対して重大な肉体的又は精神的な危害を加えること。
(3)全部又は一部に肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を集団に対して故意に課すること。
(4)集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること。
(5)集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。

中国共産党がいまウイグル人に行なっていることは、ほぼすべてこの定義に当てはまるといわざるをえないだろう。

 

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