2021年04月15日 公開
2023年02月15日 更新
苦境に立たされる旅行業界。「観光立国」を推進してきた我が国の戦略は再考を迫られている。新型コロナの収束が不透明な状況下、いかなる旅を提供するのか。コロナ禍の真っただ中に業界最大手のトップに就任した山北社長が語る覚悟とビジョン。
※本稿は『Voice』2021年4月号より一部抜粋・編集したものです。
聞き手:Voice編集部(中西史也)
――新型コロナウイルスの感染拡大から1年以上が経ちましたが、観光業界は依然として大きな打撃を受けています。山北社長は、コロナ禍真っただ中の昨年6月に社長に就任しました。この1年をどう振り返りますか。
山北 まったく経験したことのない次元で世界中が影響を受けた一年だったのは間違いないでしょう。これまでも観光産業には、戦争やテロ、感染症といった突発的に生じうるリスクはつきものでした。ただ、これだけ広範囲かつ長期間にわたって余波が続く例はなかった。
日本の観光産業は、2007年1月に観光立国推進基本法が施行されて以降、右肩上がりで成長してきました。2008年に約835万人だった訪日外国人旅行者数は、2018年には3000万人を超えた。
また、観光は経済面のみならず、国際交流や地方創生の側面でも大いに貢献してきました。ところが、その順調な流れをこのたびのコロナ禍が覆してしまった。現在の観光産業は深刻な状況にあります。
――停滞する旅行の喚起を狙った政府の事業「Go To トラベル」により、同キャンペーンが開始された昨年7月22日から12月15日までのあいだで、利用人泊数は累計で少なくとも約8282万人泊に達しました(観光庁発表)。
旅行業界の立場からは、同キャンペーンの効果をどうみますか。
山北 業界にとってプラスに働いたことは確かです。旅は人びとの暮らしを豊かにするために不可欠なものです。加えて、それを実現する観光インフラを支えることも含めて、こういった支援策があると考えています。
「Go To トラベル」も、関係諸機関の皆様の協力のもと、感染防止策を徹底したうえで推進されてきました。ただ、誰も経験したことのない状況下での開始でしたので、具体的な運用においてはキャンペーンを進めながら同時並行的に考えざるをえなかった面もあったでしょう。
――「Go To トラベル」は現在(4月上旬)、全国で一時停止されています。今後どのような施策を政府に望みますか。
山北 新型コロナの感染が収束に向かうこと、これが最も大事なことです。一定の収束をみた段階で、人びとの交流を促し、傷んだ観光インフラを支える何がしかの施策は必要でしょう。
具体的な中身については、関係者のあいだで検討が進められていることと思います。
一般的に観光というと、我々のような旅行業界や宿泊施設などをまずイメージされるかもしれません。しかし、ほかにも飲食店や交通機関など多岐にわたる事業者が関わり、一大経済圏を形成しています。
世界のGDP全体のうち10%が何らかのかたちで観光に関与しており、労働人口も世界全体の10%を超えるといわれています。日本のみならず国際的にみても、観光産業の復活は(経済的にも)不可欠なのです。
そもそも、人びとが交流する機会を失うことは、人類にとっての重大な問題といえるでしょう。人間は挨拶から始まり、交流することで互いの関係を深めていく。
その大事な体験を絶やさないためには、新型コロナといった感染症に限らず、あらゆるリスクに備えなければならない。持続可能なかたちで交流ができる施策が必要ですし、我々自身もそうした取り組みを実践していくつもりです。
更新:11月21日 00:05