2021年02月18日 公開
2022年12月28日 更新
トランプ死すとも、不満は死せず――。
恐れ、怒り、憎しみ、攻撃性から力を引き出す世界の「ダークサイド化」が生み出したトランプ現象はこれからも決して消えない、と指摘する宮家邦彦氏。米国社会の内向き傾向と、国内政治の劣化は今後も続くのか。
※本稿は、宮家邦彦 著『劣化する民主主義』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
以前に地下鉄内で構想を練っていたら、『一発屋芸人列伝』という書籍の広告が目に入った。
まずは「一発屋」の英訳から。和英辞書には「one-hit wonder」とあるが、これは歌手などに使われることが多く、トランプ氏の場合は「flash in the pan」のほうが相応しい。
ちなみに「flash」は閃光、「pan」は火打ち銃の火皿を意味する古い表現だが、19世紀ゴールドラッシュ時代のカリフォルニアでは「鍋の中の砂金」という意味でも使われたようだ。
たしかにトランプ氏は「一発屋芸人」ならぬ「一発屋興行師」に終わるのかもしれない。
だが、事の本質はトランプ氏個人の問題ではなく、米国だけの問題でもない。
トランプ現象は混乱の「原因」ではなく、たんなる「症状」にすぎない。いまや「主権国家」がグローバル化の弊害から国民を守るべく復権を果たしつつあると見るべきだ。
2018年7月10~16日の欧州歴訪で、トランプ氏は世界を驚愕させた。
ブリュッセルでNATO(北大西洋条約機構)年次首脳会議直前に北大西洋同盟の要であるドイツの首相を辱め、イギリスでは反トランプデモの嵐が吹き荒れるロンドンを意図的に回避し、フィンランドで米露首脳会談で多くの欧州同盟国首脳を当惑させたのは、ほかならぬトランプ氏自身だったのだから。
最大の批判は、2016年大統領選挙へのロシア介入という米情報機関の分析・判断をトランプ氏が無視し、公の場でプーチン氏に十分抗議しなかったことだ。
今回ほど米国の現職大統領の振る舞いがお粗末に見えたことは記憶にない。もちろん、冷戦時代にはありえなかったことだ。いまや欧米エリート層のやり切れない気持ちが急速に拡大しつつあるらしい。
たしかに、欧州での彼の言動は信じ難いものが多かった。とくに米露首脳会談でのパフォーマンスは異様ですらあった。
米国大統領がプーチンの軍門に下ったという意味では歴史的失敗であり、きわめて不名誉で、反逆的行動ですらあった、などと欧米主要メディアは異口同音に報じた。日本でも一部識者が無批判のまま、この種の報道に同調している。
更新:11月24日 00:05