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特別会計の事業仕分けで問われる第3のポイント

2010年11月05日 公開
2023年09月15日 更新

松野由希 (政策シンクタンクPHP総研特任研究員)

 事業仕分けの第3弾が始まります。10月27日から行われる前半では、特別会計が対象となります。特別会計の仕分けの目的は、個々の事業とともに、制度自体の必要性を点検し、制度の刷新を行うことです。今回の仕分けを見るポイントは3つあります。

 1つ目のポイントは、事業廃止や民間委託・民営化によって、どれだけの無駄が削れるかです。一般会計の歳出規模は92兆円ですが、現在18ある特別会計は、歳出総額が367兆円、重複計上を除いた歳出純計が176兆円です(平成22年度当初予算)。このうち、規模の大きな項目は、国債償還費等(74兆円)、社会保障給付費(57兆円)、地方交付税交付金等(19兆円)、財政融資資金への繰入(16兆円)の順となっており、ただちには削減の難しいこれらの項目を除いた10兆円が、まずは見直しの対象となる経費といえます。

 特別会計の中には、独立行政法人に対する運営費交付金として支出されている資金もあります。この中には、「グリーンピア(大規模年金保養基地)」を作った年金特別会計や、「私のしごと館」を作った労働保険特別会計のように、妥当性が乏しい事業が数多くありました。これらの見直しによって、どの程度の財源が捻出できるかというのが第1の見どころです。

 2つ目のポイントは、今回の仕分けによって、いわゆる「埋蔵金」(特別会計の積立金・剰余金のうち必要額を上回る部分)をどれだけ見つけることができるかです。余剰資金といっても、多くの場合は一般会計から特別会計に資金を繰り入れた結果として生じたものです。税金や国債を原資としている以上、余ったお金は一般会計に戻すのが筋でしょう。

 4月に行われた独立行政法人の仕分けでは、鉄道建設・運輸施設整備支援機構に1兆3500億円の利益剰余金があることが判明しました。国土交通省は、これを経営基盤の弱いJR北海道・四国・九州やJR貨物の経営安定化目的に充てたいようですが、財務省は一般会計に返納するよう求めています。優先順位を十分に考慮しないまま、埋蔵金をこのような特定目的に充てることは適切とはいえず、一般財源として予算上の優先度を見極めたうえで活用することが妥当といえます。

 「埋蔵金」という観点から今回注目されているのは、労働保険特別会計雇用勘定の積立金6.6兆円(平成20年度決算処理後)があります。将来の雇用情勢の悪化に備えるには十分な積立金を積んでおく必要があり、取り崩せないとの主張もありますが、この点については失業給付が増大するリスクを過大に評価しているため、積立金が必要以上に大きくなっているとの指摘もあります。将来の不確実性に伴うリスクを定量的に把握したうえで、雇用保険料の適切な見直しが求められます。

 3つ目のポイントは、特別会計という制度そのものを改革できるかであり、これが最も重要なポイントです。見直しの方向性としては、特別会計を廃止して一般会計に移すことが想定されているようです。しかし、一般会計化とは、事業の優先順位の判断が、所管官庁から財務省に変わるだけです。従来と同じ判断基準で評価するなら、財源の有効活用とはなりません。

 特別会計として区分経理をする最大のメリットは受益と負担の関係が明らかになるということです。限られた財源下では、行政サービスの水準の引き下げや、負担の増加など、痛みを伴う改革が増えてきます。納税者の理解を求めるためには、受益と負担の関係を明確にして改革を行う必要があります。単なる数合わせで一般会計化する金額の規模を示すだけでは、実質的な意味はありません(参考文献1参照)。

 それでは、求められる制度改革とは何なのでしょうか。特別会計の見直しにおいて重要なのは、複数の特別会計を形式的に統合したり、一般会計化したりすることではなく、それぞれの特別会計が担うべき役割を精査して、制度の仕組み自体を変えることなのです。たとえば、特別会計の事業の多くは実際には地方で実施されています。それならば、ヒト・モノ・カネをまとめて地方移管(自治体などへの移譲)をすればよいのです。  具体的には、社会資本整備事業特別会計の事業として、直轄国道と直轄河川の管理があります。これは国の出先機関である地方整備局が担っています。民主党は国の出先機関の原則廃止(地方移管)をかかげています。それなら、今回の仕分けを契機に、出先機関と特別会計を合わせて地方移管することが最善の選択です。特別会計の地方移管によって、国と地方の二重行政を廃止し、地域の実情を把握している自治体などが、自らの財源を効率的に使うことこそ、民主党政権が進める地域主権改革に沿うものといえます(参考文献2参照)。

 以上述べたように、特別会計見直しの3つのポイントは、無駄削減、財源捻出、制度改革です。特別会計の事業仕分けが単なる無駄削減や財源捻出にとどまるのか、制度改革である特別会計の地方移管にまで踏み込めるのか、民主党政権の改革の本気度が問われます。

参考文献1:「特別会計改革で何を見直すべきか」『Voice+』(2010.05.24)

参考文献2:「国の出先機関と特別会計の道州移管に関する試論~国家公務員12万人が削減可能に~」(『PHP Policy Review』10年7月 Vol.4-No.33)

(2010年10月25日掲載。※無断転載禁止) 政策シンクタンク PHP総研 Webサイト【http://research.php.co.jp/】(PCサイト) 政策シンクタンク PHP総研の最新情報はメルマガで⇒【http://research.php.co.jp/newsletter/】(PCサイト)

img01.jpg 松野 由希 (まつの・ゆき)
PHP総研 政治経済研究センター特任研究員
 宮崎県生まれ。2000年法政大学経済学部卒業。2006年法政大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。黒川和美研究室(公共経済論)。2006年より3年間、財団法人運輸政策研究機構運輸政策研究所研究員。2009年よりPHP総研特任研究員、法政大学理工学部非常勤講師。2010年より嘉悦大学経営経済学部非常勤講師。専門は交通経済・公共経済。

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