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進む再評価 ノーベル賞経済学者・フリードマンと日本の「深い関係」

2019年11月28日 公開
2019年11月28日 更新

柿埜真吾(かきのしんご:経済学者)

 

実は日本とのつながりが深いフリードマンの的確な分析

これに対して、日本では概してフリードマンへの関心は乏しく、2012年の『選択の自由』の再版等のわずかな例外を除くと、フリードマンを再評価する目立った動きはほとんどない。

日本ではしばしばフリードマンの思想を嫌うあまり、その業績を認めない風潮さえある。

フリードマンに市場原理主義者、弱者切り捨てといったレッテルを張ったセンセーショナルな書籍は巷に溢れているが、田中秀臣(ひでとみ)[2006、2008]の優れた研究が指摘するように、その多くは事実誤認が少なくなく、信頼できないものばかりである。

フリードマンが実際に何を言っていたのかは日本ではほとんど知られていないのが現状である。日本とは縁遠い米国の過去の経済学者だ、というのが一般的なイメージだろう。

だが、フリードマンと日本のつながりは意外に深い。ノーベル経済学賞受賞でフリードマンの業績が世界的に評価されるのに先駆け、1963年に初めてフリードマンに名誉博士号を贈った大学は立教大学である。

1981年にはフリードマン夫妻の回想録出版に先立ち、フリードマン夫人の回想録(ローズ・フリードマン、1981)が日本語でのみ出版された。フリードマンの最後の論説は日本のバブル崩壊後の金融政策と1930年代、2000年代の米国の金融政策とを比較したものだった。

フリードマンは1960年代から折に触れて日本経済に関する論文を発表してきたが、その分析は日本経済への深い理解に裏打ちされたものである。

たとえばフリードマンは、1970年代には固定相場制崩壊が不可避であることを警告し、1990年代にはデフレ不況の到来を予測し、デフレ脱却には量的緩和が不可欠であることをいち早く指摘している。

高度成長期から1990年代以降のデフレ期まで、内外のエコノミストの日本経済への評価は極端な礼賛から極端な悲観論へと揺れ動いたが、フリードマンは「日本経済の成功は政官財が一体化した『日本株式会社』によるものだ」といったステレオタイプな日本経済特殊論を実証的に批判し、日本の戦後の高度成長期から1990年代半ば以降のデフレ期までの期間を一貫した統一的視点から的確に分析している。

自由市場と安定した金融政策が日本の経済発展の鍵であり、1990年代以降の停滞の原因は金融政策の失敗によるデフレ不況にあるとするフリードマンの指摘には、今日でも学ぶべきところが少なくない。

ところが、フリードマンの日本経済分析については、それが存在することすら、世界の経済学者の間でも、分析対象になっている当の日本の経済学者や関係者の間でも、ほとんど知られていない。

最近のフリードマンを評価した優れた研究としては、金融政策を中心にフリードマンの学説全般を扱った吉野正和[2009]、フリードマンの大恐慌研究を現代から評価した宮川重義[2014]、フリードマンを歴史的なコンテクストで評価した若田部昌澄[2012]などがあるが、これらの研究もフリードマンと日本の関係に焦点を当ててはいない。

筆者が知る限り、フリードマンの日本経済研究を体系的に評価した研究はまだなされていない。

フリードマンの思想は誤解されがちだが、彼の分析は現代日本の様々な経済問題を解くための貴重な洞察に溢れている。

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