2019年11月28日 公開
2019年11月28日 更新
ノーベル経済学賞を受賞し、20世紀後半から21世紀初めにかけて世界に燦然たる輝きを放ったアメリカの経済学者ミルトン・フリードマン(1912-2006)。
この「巨匠」がじつは繰り返し日本に関する分析と発言を行なってきたことをご存知だろうか? 日本のバブル崩壊とデフレ不況を予見し、金融政策の誤りや貿易摩擦、構造問題を鋭く語ったフリードマンへの再評価が進んでいる。
日本のエコノミストから「市場原理主義者」のレッテルを貼られ誤解されがちなフリードマンの対日分析を行った書『ミルトン・フリードマンの日本経済論』より、なぜ今彼の言葉を再考すべきなのかを語った一節を紹介する。
※本稿は柿埜真吾著『フリードマンの日本経済論』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです
ミルトン・フリードマン(Milton Friedman 1912-2006)は、20世紀を代表する経済学者である。フリードマンは自由市場経済の重要性を説いた経済思想家でもあり、英国のサッチャー政権や米国のレーガン政権の経済改革に大きな影響を与えたことで知られている。
ソ連崩壊、東欧の民主化・市場経済化が進み、中国やインドも市場経済化を進める改革で経済成長を実現した20世紀後半から21世紀初めは、まさにフリードマンの時代といってよいだろう。
その死から今年で13年になるが、世界ではフリードマンの人気は依然として衰えていない。米国の経済学者への大規模なアンケート調査を行ったKlein et al.[2013]によれば、フリードマンは政治的立場を問わず高い人気を誇り、最も好きな20世紀の経済学者を問う投票では僅差でJ・M・ケインズに次ぐ第2位であった。
2017年はフリードマンのアメリカ経済学会会長講演から50周年を迎える年に当たっていたが、『ジャーナル・オブ・エコノミック・パースペクティブ』誌の記念特集号には、米国を代表するマクロ経済学者グレッグ・マンキューやノーベル経済学賞受賞者のトーマス・サージェントをはじめとする一流経済学者が論文を寄稿している。
過去の経済学者の論文にこれほど注目が集まるのは珍しい。これは、マンキューとリカルド・レイスが述べるように、「フリードマンのアメリカ経済学会会長講演から50年が過ぎたが、驚くべきことに、そのテーマは今も景気循環理論と金融政策論の中心であり続けている」証拠だろう。
フリードマンの理論や政策提言は決して過去のものではなく、今も熱い注目を集めているのである。
フリードマンの影響は決して一部の「市場原理主義者」に限られるものではない。たとえば、『21世紀の資本』で話題となったトマ・ピケティはフリードマンとは対照的な政治思想を持つが、フリードマンの研究を高く評価し、次のように述べている。
「ミルトン・フリードマンは単なるイデオローグではなかった。……その経済分析に同意するにせよしないにせよ、フリードマンが本物の研究者だったのは間違いない。……今日、1929年の危機と金融政策が果たした役割に関する論争は未だ決着がついていないが、フリードマンの業績を無視することは決してできない」
米国の穏健リベラル派にとってフリードマンがどんな存在なのかを知るには、クリントン政権で財務長官を務めた経済学者ローレンス・サマーズの言葉を引くのが一番だろう。
「進歩的な経済学者の家庭で育った私にとってミルトン・フリードマンは悪役だった。しかし、時がたち、……私はいやいやながら彼に敬意を払うようになり、それから彼と彼の思想に敬服するようになった」
サマーズは「ケインズが20世紀前半の最も影響のある経済学者だったとすれば、ミルトン・フリードマンは20世紀後半の最も影響のある経済学者である」と言ってはばからない。
学術の世界だけでなく、政策の場でもフリードマンの提唱した教育改革や貧困対策のアイデアは政治的党派を超えて真剣に検討されており、すでに実施している国もある。世界では、フリードマンの研究は今や経済学の共通の遺産となっているのである。
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更新:11月21日 00:05