2019年08月08日 公開
2019年08月08日 更新
写真:大坊崇
7月の参院選では、与野党の構図に大きな変化はみられなかった。そのなかで辛坊治郎氏は、れいわ新撰組の躍進は「左派ポピュリズム台頭の萌芽」だと指摘する。さらに与野党間で議論の深まりをみせなかった年金問題については、「打ち出の小槌はない」と断言。日本の重大論点を徹底解説。
※本稿は月刊誌『Voice』(2019年9月号)、辛坊治郎氏の「左派ポピュリズム台頭の萌芽」より一部抜粋・編集したものです。
聞き手:編集部(中西史也)
――7月21日の参議院選挙は、与党の自民・公明が改選前から6議席減らしたものの、過半数を維持しました。今回の選挙で最も注目した点はどこですか。
【辛坊】 参院選の結果は、事前の想定を超えないものでした。細かな議席の変化はあったものの、自民・公明で過半数を維持し、与党を揺るがすほどの大躍進を果たした野党はありませんでした。
そのなかでも私が注目したのが、山本太郎代表率いる「れいわ新選組(以下、れいわ)」です。れいわは今年4月に設立され、消費税廃止、奨学金の返済免除、脱原発など左派的政策を訴えています。
参院選で10人の候補者を擁立し、得票が一定数を超えれば優先的に当選する特定枠では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の舩後靖彦氏と、重度身体障害のある木村英子氏の2人が当選しました。
代表の山本氏は特定枠を優先したため落選したものの、約100万票を獲得。比例区では党全体で228万票を得たのは、驚くべきことです。
――山本氏の得票数は、比例区の全候補者のなかで最多でした。れいわが一定の支持を得たことは何を意味するのでしょうか。
【辛坊】 れいわについては、着目すべき点が3つあります。
1つ目は、参議院で2議席を確保し、比例区で2%以上の得票率を獲得したことで、政党要件を満たしたことです。それに伴い、政党助成金を受け取ることができ、本格的な選挙活動も可能になりました。
山本氏は党の代表として活動しながら、来る衆院選に出馬する意向を示しています。
2つ目は、れいわは投票前に大手マスコミにほとんど露出することなく、有権者の支持を得たことです。
れいわは選挙前は政党要件を満たしていなかったため、メディアに出る機会は限られていました。その圧倒的不利な状況下、街頭演説やネットでの選挙活動により、地道に知名度を上げていった。
4月に旗揚げしてから参院選前日の7月20日までに、約3万3000人が同党に寄付し、じつに4億円を集めたといいます。今後は新聞、テレビを中心としたマスメディアへの露出も増え、それらの媒体を活用する中高年層にも存在をアピールすることができます。
3つ目は、今回のれいわの躍進は、日本における左派ポピュリズム台頭の萌芽なのではないか、ということです。
いまヨーロッパでは、ギリシャの急進左派連合のように、反グローバリズム、反緊縮財政を庶民に訴える勢力が伸張しています。れいわの掲げる政策はまさに、左派ポピュリズムと軌を一にしている。
私はれいわの政策には賛同しませんが、代表である山本氏の求心力には卓越したものを感じます。
彼は小泉純一郎氏や橋下徹氏のような「情に訴える」演説を行なっています。立憲民主党の枝野幸男代表のように、喋りは上手でも理屈っぽくてイマイチ有権者の心に響かない様とは熱量が違う。
れいわの議席は現状、2議席にすぎませんが、その政策を支持する潜在的有権者は存在します。既成政党に辟易した層を同党が取り込み、他の野党を巻き込んで左派ポピュリズムが結集したとき、思わぬ旋風を巻き起こすかもしれません。
更新:11月21日 00:05