2019年07月30日 公開
2019年08月02日 更新
デジタル時代が進化するほどに、一つのテーマを長期にわたり丁寧に追う調査報道はますます国民にとって重要性を増してくるでしょう。今日本でもアメリカでも、残念ながら調査報道は「消滅」しつつあります。
これがないと、いくらニュースで事実を伝えても断片的な情報にしかならず、「あのニュースとこのニュースがどうつながっているか」が見えてこない。結果として、視聴者が「一つのことを深く考えられなくなる」傾向を、ますます助長することになってしまう。
短いニュースからはなかなか見えない、その裏にある社会の構造を見せる調査報道には、現状を多角的に見せ、国民の問題意識を持たせる力があるからです。
一方で、時代とともに社会の経済的構造も変化していることも考えなくてはなりません。公共放送にとって、財源の独立性は非常に重要です。
世界の中で受信料のみを財源とする公共放送はイギリスのBBCと日本のNHKですが、これは社会の所得分配が平均的で幅広く徴収できることが前提ですから、格差が拡大し、非正規や低所得層の人口比率が増えている今の日本では、もはや非現実的でしょう。
いかに独立性を保つ形で維持していけるかを考えなければなりません。
私が、メディアはさまざまな意見を流すプラットホームであってほしいとお話ししたのは、何もかも「自由化」の波に飲み込まれつつある中、優れた公共放送が国家にとって、社会的共通資本の一つだからです。
戦争と平和、差別と人権、いのちと生物多様性、コミュニティの消滅や環境問題、農村・漁村の、ささやかだけれど大切な営みが破壊されていくこと。私たちが抱える問題は全て「知る権利」が損なわれたら、解決できないのです。
世界最大の公共放送局としてNHKという存在をもう一度問い直すことで、「公共放送」という、「守るべき存在」に、また一つ日本国民が、世界が気づいてゆく。それができれば、社会はまた一歩、善き方向へと変わっていくのではないでしょうか。
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更新:11月22日 00:05