2019年07月30日 公開
2019年08月02日 更新
<<NHKをぶっ壊す――そう掲げて参議院で議席獲得を果たした、NHKから国民を守る党。マスコミに厳しい目が向けられる中、その言動が注目を集めています。
では、公共放送であるNHKの役割とはどうあるべきなのか。ジャーナリストの堤未果氏は、「優れた公共放送が国家にとっての社会的共通資本」であると提言します。
メディアの大問題に気鋭の論客が挑んだ『支配の構造――国家とメディア 世論はいかに操られるか』より、NHKとメディアの未来について語ります。>>
※本稿は堤未果,中島岳志, 大澤真幸著,高橋源一郎著『支配の構造 国家とメディア 「世論」はいかに操られるか 』(SB新書)より一部抜粋・編集したものです
今、「NHKは不要だ、解体しろ」という声があります。
経営委員の人事や予算を政府が握っているにも関わらず、以前は時の政権への批判もしっかり報道していましたが、特に安保法案が強行採決された頃から、政権に都合の悪い内容を避けているのが目立ちます。
記者やプロデューサーにはすばらしい人がたくさんいて、Eテレなどは今も優れた番組を作っていますが、報道局やトップと現場の温度差がますます広がっていることが、国民の「知る権利」を大きく脅かしています。
だからこそ、NHKという象徴的な存在を通して「なぜ国家にとって公共放送が重要なのか」ということを、原点に戻って、徹底的に考え直す時期にきていると思います。
今、「公共」という概念が、グローバル資本主義にのまれ世界的に消滅しかかっている中で、「公共放送」というものも、そのあり方を問われているからです。
IT革命とコーポラティズムの台頭で、世論は「お金で買える商品」になりました。政府や広告代理店がフェイクニュースをばらまいて世論や選挙を意図的に誘導することも、簡単にできるようになってしまった。
だからこそ、採算度外視でも国民の知る権利という公益に奉仕する「公共放送」は、国家や国民、そしてその国の民主主義にとって、今後ますます重要な意味をもってくるでしょう。そういう意味で、世界最大の公共放送局であるNHKが時の総理に私物化されるとしたら、これは国家にとっての危機以外の何物でもありません。
決して事実上の国営放送になってしまってはいけない、あくまでも公共放送として、国民の「知る権利」という公益に奉仕してゆかなければならないのです。
公共放送にとって大切な条件とはなんでしょう?
財源と編集権の独立、少数派目線の番組とサービス提供、普遍的テーマ、調査報道、権力からの距離、質の高い教養番組、視聴率競争の圏外にいること、の七つといったところでしょうか。
具体的な提案を一つあげるなら、国会中継の24時間放送をぜひやってもらいたい。議席や党の大きさで時間配分に格差をつけるのではなく、いっさい手を入れずノーカットの生放送です。
そこで話し合われている議論をひたすら流す。これなら忖度とも無縁でいられる上に、この国の民主主義と国民の知る権利に対して大きな「公益」を提供できるでしょう。
あるいは、大きな災害が起こったときには、被災地が今どうなっているのかを、専門のチャンネルをつくって長期間、報道し続ける。「喉元過ぎれば」ではなくて、ある程度の期間はずっとそれを続けていってほしい。
かつては災害時などに公共放送がなかったら過疎地に情報が入らないという問題がありましたが、今はインターネットとスマホの普及でそういう必要性もなくなって、存在理由自体が揺らいでいますが、自然災害大国のここ日本で、今こそ大規模な防災メディアとしての役割が重要になってきていると思うのです。
NHK上層部は問題がありますが、現場には問題意識が高く、被災地に寄り添う眼を持った優れた記者がたくさんいます。
民放の真似などする必要はありません。民放にはできないこと、視聴率競争やバラエティ番組の演出など必要ない立場だからこそ、できることが本当にたくさんあるからです。
更新:11月22日 00:05