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移民の制限を訴えたら「極右」なのか?欧州で台頭する「自国ファースト」の最前線

2018年11月06日 公開
2018年11月15日 更新

宮下洋一(ジャーナリスト)

「私の言うことは日本では当然」

チェコ共和国では、現在、ポピュリズム政党と揶揄される「自由と直接民主主義」(SPD)が、2017年10月の下院選挙で、突然、第3党に躍進した。

党首は、日系人のトミオ・オカムラ(岡村富夫)氏だ。2017年末、同氏を取材した。その時の、彼の流暢な日本語による刺激的な発言を思い出す。

「自国民がまともな生活を送れなくなっても、移民を受け入れるべきなのでしょうか。無制限に受け入れることを拒めば、移民排斥者と呼ばれる。人種差別主義者だなんてありえない。私がその証拠です。私のような顔をしていても、チェコ人は私に票を入れるのです。今はもう右も左も存在しない」

チェコの政党「自由と直接民主主義」党首のトミオ・オカムラ氏

現在の極右・極左といった政治思想は、「戦後のそれとは違う」と、エセックス大学のハン・ドルセン政治学教授が、アルゼンチンのニュースサイト「インフォバエ」に答えている。

「トランプ米大統領に近い政治家として、グローバル運動を展開しながら、自国ファースト主義を訴えているのだ」

現在、オカムラ氏と同盟関係にあるオランダのウィルダース党首、フランスのルペン党首らは、EU懐疑派で反移民。EU諸国からは、しかしながら「極右」のレッテルを貼られている。

その理由は、「移民の数は制限されるべき」という考えに基づき、その発言自体が「極右」とされ、「移民排斥者」と見なされるのが、現在の欧州の実情だからである。

ダブリン規約についても、オカムラ氏はこのように断言している。

「規約では、難民が安全な国に入ることを許可しなくてはならないが、だとすれば日本は難民に何もしていない。日本の政治家は全員エクストレミスト(極右)なのですか。それは違う。私がここで言っていることは、日本では当然の話なのです」

こうした反移民政策を謳う国々や指導者の声は、納得できる部分もあるが、必ずしも賛同できない部分もある。確かに、欧州が保守化・右傾化していることは認めざるを得ないが、難民や移民を「保護しない」ということは、各国が行使できる権利ではないだろう。

弱者を保護すべきという道徳は理解しつつも、それによって築き上げた理想の国家が崩壊することは耐えられない……。端的に言えば、これが現在、欧州の主に大都市を除く人々の間で生じているジレンマなのだ。

※本稿は『Voice』2018年12月号、宮下洋一氏の「欧州移民政策の失敗から見えたこと」を一部抜粋、編集したものです。

著者紹介

宮下洋一(みやした・よういち)

ジャーナリスト

1976年、長野県生まれ。18歳で単身アメリカに渡り、ウエスト・バージニア州立大学外国語学部を卒業。スペイン・バルセロナ大学大学院で国際論修士、同大学院コロンビア・ジャーナリズム・スクールでジャーナリズム修士。著書に、第21回小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作『卵子探しています 世界の不妊・生殖医療現場を訪ねて』(小学館)など。

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