2018年11月05日 公開
2018年11月05日 更新
原雄一氏(写真:西﨑進也)
――なぜ公安部はそこまでオウムに拘泥してしまったのでしょうか。
原 正確なことはよくわかりません。ただ公安部の幹部や捜査員たちは、オウム真理教の犯行というレールから外れてはならない「宿命」を背負っていたのではないかと感じています。
公訴時効が近づいていたころ、私は当時の警視総監に「なぜ、狙撃事件の犯人が捕まらないかわかるかね」と問われました。答えあぐねている私を見て、総監は「公安部が捜査しているからだよ」と言われました。
狙撃事件発生以来、歴代の幹部の多くがオウムの犯行と見て捜査を続けてきたのだから、その道からは逸脱できない、という暗黙の了解が存在していたのでしょうか。
――思い込みにとらわれて現実を見失うことは、警察組織だけでなく、民間企業等の組織においても見られる失敗のように思います。
原 だからこそ私は、あのとき警察内部で何が起きていたのか、という記録を残すために本書を書いたのです。オウムに対する捜査が進んでいた一方で、中村泰というテロリストが存在していました。
そして彼を追い続けた捜査員がいたことを歴史の闇に埋もれさせたくはなかったのです。中村を追っていたわれわれを含め、組織の一人ひとりに「宿命」があったような気がしています。
※本稿は『Voice』2018年12月号「著者に聞く」原雄一氏の『宿命』を一部抜粋、編集したものです。
更新:11月23日 00:05