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宇都宮徹壱 サッカー日本代表「終わりの始まり」

2018年06月06日 公開
2018年06月06日 更新

宇都宮徹壱(ノンフィクションライター)

「少し時間をいただきたい」

話は、4年前にブラジルで開催されたW杯に遡る。この大会での日本は、相手よりもポゼッション(ボール保有率)で上回るサッカーを展開して、グループリーグ突破をめざしていた(本田圭佑に至っては「W杯優勝をめざす」と公言していた)。しかし結果は、1分け2敗のグループ最下位。いわゆる「自分たちのサッカー」は、世界を相手にまったく通用しなかった。

この反省を踏まえて、当時の技術委員会が白羽の矢を立てたのが、選手としても監督としてもW杯を経験している、メキシコ人のハビエル・アギーレ氏であった。しかし14年末、スペインのクラブで指揮を採っていた時代の八百長疑惑が発覚。結果として、15年1月のアジアカップを最後に、JFAはアギーレ監督との契約解除に踏み切る(ちなみにアジアカップでの戦績は準々決勝敗退であった)。

JFAは急遽、新しい代表監督を探さなければならなくなった。W杯予選は3月に迫っている。だが、この時期は欧州のシーズンがまさにたけなわ。指導経験が豊かで、W杯やチャンピオンズリーグでの実績があるフリーの指導者など、なかなか残っていない。

また、そうした人物がいたとしても、欧州から遠く離れた日本で仕事をすることは、フットボールの世界の中心地から外れることを意味する。次の就職先を考えると、決断にリスクが伴うことはいうまでもない。

それでも当時の技術委員会は、新しい監督をヨーロッパから連れてきた。しかも、実績も経験も申し分ない名将である。ボスニア・ヘルツェゴビナ出身(現在はフランス在住)のハリルホジッチ氏は、前回のW杯ではアルジェリア代表を率い、同国を初のベスト16に導いただけでなく、優勝したドイツとの対戦では延長戦にまでもつれる大接戦を演じたことでも知られる。

ハリルホジッチ氏は、規律を重んじ、厳格でいっさいの妥協を許さず、勝利のためにはどんな努力も厭わないタイプの指導者である。また、対戦相手の分析力に長け、戦術の引き出しが多いのが強みとされる。そして真骨頂といえるのは、物事を世界基準で捉え、必要とあれば「弱者のサッカーができる」ことだ。ブラジルで一敗地に塗れることになった日本代表には、これ以上ない人選であったといえよう。

15年3月の就任会見で、ハリルホジッチ監督はこのように述べている。

「皆さんにお願いしたいのは、少し時間をいただきたいということだ。私自身はまだ、日本のことをよく理解しているわけではない。それでも時間をもらい、辛抱強く見てもらえれば、良い結果を出せると思っている」

いまにして思えば、何とも暗示的な発言であったといわざるをえない。

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