2018年02月06日 公開
2022年10月06日 更新
聞き手:編集部 撮影:吉田和本
――現在のタイトル保持者を見ると、佐藤天彦名人(30歳)、中村太地王座(29歳)、菅井竜也王位(25歳)など、20代や30代前半の若手棋士が名を連ねています。こうした若手棋士の台頭をどう見ていますか。
羽生 若手棋士が着実に力を伸ばしているのが近年の顕著な傾向です。しかもその層が非常に厚くなっている。タイトル戦のみならず通常棋戦においても、私が対局する棋士はほぼ20代か30代であり、同年代ともなるとかなり少なくなります。50代以上の棋士とは、1年に数えるほどしか対局の機会がありません。
――若手棋士の活躍が目立つのは、コンピュータソフトを使った棋譜や戦法の研究に長けている点も影響しているのでしょうか。
羽生 それはあります。ソフトを使った研究が主流になってきていて、ここ2、3年ほどで将棋の戦い方が大きく変わりました。
ただ、必ずしも若いからコンピュータソフトの使い方について熟知しているわけではなく、使い方次第だと思います。私より上の年齢の方々は、数年前までソフトをまったく使ってこなかった世代ですが、現在はソフトを積極的に自らの研究に取り入れている棋士も少なくありません。
――羽生竜王は以前、年とともに経験を重ねたことで選択肢が増えたからといって、それが強さに直結するとは限らない、とおっしゃっていました。現在47歳ですが、年齢によって戦い方を変えていくのでしょうか。
羽生 変えざるをえないと考えています。将棋の戦術や流行は年々変わっており、それに合わせてチューニングする必要があります。それと同時に、自らが積み上げてきた経験値をどう対局に生かしていくか。
たとえば最近だと、温故知新ではありませんが、何十年も前に流行していた戦法がリバイバル(復活)する傾向があります。再び注目されるようになった戦法には、自分が10代のころに研究してきたものも少なくない。かつて学んだ知識の記憶を辿りながら、いかにいまの時代に合ったものへ変換するかという試行錯誤をしています。
――コンピュータソフトを使った研究が主流になることで、未知の新しい戦法だけでなく、過去の戦法も見直されるようになったのは、なぜでしょうか。
羽生 人間の指す将棋とコンピュータの将棋はまったく別の世界です。コンピュータが採用する手筋や形は人間にとって理解し難いものが多いのですが、人間とコンピュータの将棋それぞれが交わる場所がじつは存在します。その交わるところが、人間がかつて採用してきたもののリバイバルの部分です。時を経ても人間とコンピュータが共に評価する部分こそ、「将棋の本質」に近い形だといえます。
(本記事は『Voice』2018年3月号、羽生善治氏の「若手棋士との真っ向勝負」を一部、抜粋したものです。全文は2月10日発売の3月号をご覧ください)
更新:11月22日 00:05