2017年10月13日 公開
2024年12月16日 更新
北朝鮮によるミサイル発射実験や核実験が相次ぎ、日本の安全保障に深刻な脅威を突き付けている。2年前に安保法制に反対したシールズ(自由と民主主義のための学生緊急行動)には、いまこそ再結集してもらいたい。日本の自由と民主主義が根源から脅かされかねないのだから。
また、安保法制反対の声明を発した学者や評論家の諸氏にも、せめてあのときの半分の情熱でも傾けて、北朝鮮に抗議の声を上げてもらいたい。集団的自衛権の行使を認める立場もあれば、反対の立場もある。これは日本国憲法の保障する言論の自由、思想信条の自由の話である(いわゆる護憲派が自分たちと見解の異なる人びとに、それほど寛容であったようには思えないが)。
だが、いまや度重なる国際連合安全保障理事会決議を踏みにじって(そう、平和主義者の大好きな国連決議を、である)、北朝鮮は軍事的挑発行動を重ねている。これにも批判の声を上げるのが、知的誠実(インテレクチュアル・インテグリティ)というものではなかろうか。
また、北朝鮮相手に外交や話し合いによる解決を提唱するのなら、ある程度具体的なシナリオを提示すべきである。対話は無為無策の口実であってはならない。
こうしたなかで、筆者は8月半ばから1カ月のあいだワシントンに滞在していた。もとより、政治都市ワシントンのことである。
北朝鮮問題に関するさまざまなシンポジウムやセミナーが開催され、専門家の議論は尽きなかった。しかし、一般のアメリカ人やメディアの関心は、連続したハリケーンの被害にはるかに集中していた。まずは、このギャップを念頭に置いておく必要があろう。そもそも、トランプ大統領は「アメリカ第一主義」を掲げて、一定の支持を得てきたのである。
9月19日に、そのトランプ大統領が国連外交のデビューを飾った。国連総会での彼の演説は、ジョージ・W・ブッシュ大統領の「悪の枢軸」演説を想起させるが、もはやイラクはその対象外である。
トランプ大統領はここでも「アメリカ第一主義」を語り、国連改革を促した。そして、北朝鮮がアメリカやその同盟国を脅かすなら、「完全な破壊」が待っていると豪語した。しかも、大統領は「善良な13歳の日本の少女」、つまり、横田めぐみさんに言及して、北朝鮮による拉致を非難した。
ここから、3つの事が指摘できよう。まず、北朝鮮による核・ミサイル開発がアメリカにとっても許容限度に達しつつあることである。第2に、国連に象徴される多国間外交や国際機関の非効率への批判である。これは保守派に広く共有されていよう。そして第3に、「忘れられた人びと」への共感というトランプ大統領の政治手法である。
今回トランプ大統領は横田さんに触れたが、昨年の選挙では中西部を中心とした「忘れられた人びと」、「置き去りにされた人びと」を味方に付けたのである。多くの日本人にとって、暴言を繰り返すトランプ大統領を一定の有権者が支持していることが奇異に感じられるかもしれない。
だが、アメリカ合衆国大統領が国連総会の場であらためて日本人拉致被害者に言及したことには、ある種の感動を覚えた向きもあろう。この感動と同種のものを、トランプ支持者は抱いているのではなかろうか。
そして、彼らは、共和党か民主党かを問わず、エリートたちに「忘れられた人びと」なのである。トランプ氏は彼らの怒りを過激に代弁してきた。
振り返れば、オバマ氏は史上初の黒人大統領として、「忘れられた人びと」を代表していたし、同性婚の容認など性的マイノリティの人権拡大にも道を拓いた。
いわば、オバマ氏はリベラルの側でマイノリティの自己主張という「パンドラの箱」を開けた。これに刺激された保守の側で、トランプ氏は低所得の白人男性層を中心に、別の「忘れられた人びと」の「パンドラの箱」を開けたのである。
いまやアメリカは「合衆国(the United States)」ではなく、「分断国(the Divided States)」だとか「解体国(the Untied States)」だなどと呼ばれる。これは左右からのオバマとトランプの「合作」なのである。
また、北朝鮮に対するトランプ大統領の強硬な姿勢も、多分にオバマ前政権の「戦略的忍耐」に対する反発である。つまり、反オバマという意味で、トランプ大統領の内政と外交は多分に共通している。
(本記事は『Voice』2017年11月号、村田晃嗣氏の「トランプ対マイノリティ」を一部、抜粋したものです。全文は現在発売中の11月号をご覧ください)
更新:12月22日 00:05