2017年09月06日 公開
2022年04月01日 更新
フロリダのヒアリ(写真提供:国立環境研究所)
※本記事は『Voice』(2017年10月号)に掲載された五箇公一氏の「ヒアリを根絶するには」を一部、抜粋したものです。
現状、ヒアリが見つかっているのは、港湾のコンテナ集積場や、そこから荷物が運び出された倉庫などに集中しているが、いずれ、われわれの生活環境に近いところに彼らが突如現れることも想定しなくてはならない。
やはり一般の方々にとっての関心事は、どうやってヒアリを見分けて、刺されるのを防ぐことができるか、という予防策となると思われる。
ヒアリの形態的な特徴については環境省や自治体、博物館など関係機関からもHPなどを通じて紹介されている。とくに、アリ塚といわれる砂山を巣の入り口につくることが大きな特徴とされる。しかし、わずか数ミリのアリが足元を歩いているのを、ヒアリであると瞬時に見分けることは、昆虫学者であっても簡単なことではない。
また、いちばんわかりやすい目印とされるアリ塚は、そうとうに巣が大きくならないと形成されないので、逆に、アリ塚が出没するころにはもう刺される被害も多数報告される事態になっているであろう。
まだ1つも巣が見つかっていない現段階から、アリさえ見ればヒアリかも、と恐怖心を抱くのも合理的ではない。一般の方がまず知るべきことは、万が一にヒアリに刺された場合の対処法であろう。野外やあるいは家の中でも、アリに刺されて激しい痛みを感じたときは、そのアリがヒアリである可能性を疑い、1人きりにならないようにする。
アナフィラキシー・ショックは10~30分という比較的短時間で表れるので、身体に異常を感じ始めたらすぐに周囲の人に助けを求めて、救急車を呼んでもらう。この一連の応急処置をできるだけ広く認知してもらうことが重要となる。
一時期、ヒアリに刺されて死亡した事例は世界的に見ても確認されていない、といった報道もあったが、最近でも米国ではヒアリによる痛ましい死亡事故が報道されている。正確な死者数の把握には詳細な検証が必要とされるものの、リスク管理の観点からは、死亡例があるという点に注意を払う必要がある。オーストラリア、中国、台湾で死者が出ていないとされるのは、あくまでも応急処置が適切に取られ、アナフィラキシーを発症しても「一命を取り留めている」からにすぎない。
たとえば日本でも同様の刺傷リスクをもたらす昆虫にスズメバチがおり、年間10~30人の死者を出しているが、その多くが林業従事者とされる。つまり蜂に刺されてアナフィラキシーを発症しても、周囲に気付いてくれる人がいなかったために治療が間に合わず死に至っていると推測される。
ヒアリでも適正な処置を受けなければアナフィラキシーで死に至るリスクは十分に備わっている。必要なことは、リスクの存在と対処法を周知しておくことである。
更新:11月23日 00:05