2018年08月16日 公開
2022年08月08日 更新
写真:大野和基
――(大野)宇宙最大の謎の1つとされる「ダークマター(暗黒物質)」について教えてください。文字どおり、ダークマターとは目に見えない物質のことらしいのですが、われわれの知覚の常識に反しているように思えます。これは理論上存在している物質のことである、と理解すればよろしいですか。
ランドール その言い方は正確ではありません。われわれは、実際に自分の目で直接見えるものだけをリアルなものとして考えがちです。
しかし、自分の目といっても、たとえば大野さんはメガネをかけていますよね。その場合、メガネのレンズを通して入ってくる映像を脳が処理して見ているわけです。必ずしも物質を直接見ていることにはなりません。
ダークマターは宇宙にある物質の一種ですが、光を放出することも吸収することもないため、目で見ることはできません。
現時点でわかっているのは、ダークマターと通常の物質が、重力を通じて相互作用するということだけです。われわれができるのは、その重力による相互作用を「観測(observe)」するということです。
宇宙にダークマターが存在すると考えることによって、恒星や銀河系、銀河団の動きやビッグバン(宇宙の始めの大爆発)、宇宙マイクロ波背景放射(天球上の全方向からほぼ等方的に観測されるマイクロ波。ビッグバン理論を裏付ける有力な証拠とされる)など、多くの要素の辻褄が合います。ダークマターの存在によって、それらがすべて整合するのです。
――著書『ダークマターと恐竜絶滅』で説かれているのは、ダークマターこそ恐竜を絶滅させた原因であるという仮説です。この仮説には、どうやって行き着いたのでしょうか。
ランドール 私と共同研究者は、ダークマターの一部が寄り集まって円盤化(ダークマターディスク)し、天の川銀河の円盤内に収まっていること(二重円盤モデル)、また太陽系がこのダークマターの円盤に近づくと、外側の彗星が弾き出されて地球に飛んでくることがある、と考えてきました。
他方、地質学者と古生物学者による多くの観測で、6600万年前に巨大な天体が地球に衝突したこと、この流星物質(彗星)によって、恐竜を含む地球上の75%以上の生物が死に絶えたことが裏付けられてきました。
すなわち、私たちの考えが正しければ、恐竜絶滅の原因となった彗星の衝突は、天の川銀河の中央平面にあるダークマターディスクによる重力の影響だったということになります。
このモデルを私に示したのは、アリゾナ州立大学の物理学者であるポール・デイヴィスです。2013年12月に行なわれた年次講演会に招かれたときのことですが、私はそれまで恐竜の絶滅のことなど考えてもいませんでした。
地球上には、直径が20㎞を超えるクレーターが20以上確認されていますが、流星物質の衝突には3000万年とか3500万年とかの周期性があるようなのです。この流星物質の周期性もダークマターと関係があるかもしれません。
(本稿は『Voice』2018年9月号、リサ・ランドール氏の「『目に見えない』宇宙の秘密」を一部抜粋、編集したものです)
更新:11月22日 00:05