2017年05月19日 公開
2017年05月19日 更新
――CCRCの実現に向けて、国や自治体がより能動的に取り組むための方策はありますか?
松田 ユーザー視点です。つまり、実際に輝くアクティブシニアをロールモデルとして紹介することです。先ほど挙げた理想的なリタイア例のように、シニアの「ヒーロー」や「ヒロイン」がテレビやネットで注目を集めれば、日本におよそ660万人いる団塊世代のシニアが、新たな住まい方や暮らし方を考えて、市場を広げていくでしょう。
――おっしゃるように、「自分の知識や経験を誰かに伝えたい」「誰かの役に立ちたい」と願うシニアは少なくないと思います。
松田 アメリカのCCRCでは、投資銀行やエネルギー関連企業で働いていた人が教壇に立ち、大学教授のように国際金融やエネルギー問題を教えています。日本でも、積極的に経験やスキルを若い世代に教えるシニアが増えれば、間違いなく社会にプラスでしょう。それはなにも成功者だけでなく、バブルやリーマン・ショックで失敗した「しくじり先生」でも参考になるはずです。
先日、移住やCCRCに関心をもつシニアや現役世代を連れて徳之島(鹿児島県)に赴き、地元の高校生たちとキャリア勉強会をしました。たとえば元CA(客室乗務員)ならホスピタリティの極意、建築家はデザインの重要性というように、各々の「働く論」を話すのです。また、ある方は自分の会社の破綻という稀有な実体験をリアルに語っていて、真剣に耳を傾ける学生の姿がとても印象的でした。
徳之島の高校生キャリア教育
感想を聞くと、自身のキャリアや人生経験を説明することの難しさを感じながらも、自分の話に目を輝かせる島の子供たちと接して、彼らの将来に何か役立つことができるのでないか、と感じていたようです。
――シニアが地方の担い手になることで、承認欲求や貢献欲求が満たされるという好モデルですね。最後に、日本版CCRCは将来、地方創生に何をもたらすでしょうか。
松田 シニアの新たなライフスタイルと多世代が輝く健康な街づくりです。めざすべき社会とは、高齢者のためだけの社会ではなく、多世代のための成熟した社会です。そして移住者のためだけではなく、いまの市民のためでもあります。若者が地元から出て行く、あるいは地元に戻らない理由は、雇用がないからです。CCRCは、新たな雇用を創出し、多世代に貢献するものです。
健康寿命が延びれば、医療費や介護費も抑制可能です。産業面では、健康に関連した新産業が創出され、そこに大学の生涯学習や研究機能が加わることで、民・公・産・学の「四方一両得」のシステムが完成します。
その意味で、CCRCは地方創生の切り札になりえます。ただし、政策が事業として成立するためには今後1、2年が正念場になるでしょう。私たちが将来住みたくなるようなモデルは何かという「ユーザー視点」で議論を進めていくことが、魅力ある日本版CCRCを創出するはずです。
(写真提供:丸の内プラチナ大学)
更新:12月04日 00:05