2017年01月30日 公開
2022年12月19日 更新
2017年1月20日、ついにトランプ氏が新しい米国大統領に就任する。世界中の人びとが、大きな驚きと不安をもってその政治外交手腕に注目しているが、政治や外交の経験が皆無であることもあり、とくにその外交政策の先行きの多くは不透明だ。そんななか、現時点でトランプ氏の外交政策に強い影響を与えうるだろうと考えられる国がある。それがイスラエルだ。
トランプ氏は、過去にイスラエルを支持する発言を多くしている。たとえば、「われわれは100%、イスラエルのために戦う」とか「イスラエルはユダヤ人の国家であり、永遠にユダヤ人国家として存在することをパレスチナは受け入れるべき」などという発言を重ねており、一五年に出版した著書『不自由な米国:再び米国を偉大にする方策』のなかでは、「メキシコ国境に壁をつくる」という自説について「(イスラエル)西岸地区の分離壁を参考にした」と明確に述べている。もちろん、イスラエル右派が憎むイランにも強硬姿勢であり、六カ国協議によるイラン核合意の完全破棄をちらつかせている。
もしこれらがすべてトランプ氏の本心だとすると、気になるのは今後の米国の中東政策の行方である。
イスラエル右派と、キリスト教長老派教会に属するトランプ氏を繋ぐ窓口の1つが、長女イヴァンカさんの夫であるジャレッド・クシュナー氏(35歳)であることは間違いないだろう。第2次大戦後にポーランドから米国に移住した祖父母の血を受け継ぐユダヤ人のクシュナー氏は、ニューヨークにおける新興不動産財閥の経営者であるが、イヴァンカさんはそんな夫に従って自らもユダヤ教に改宗してヘブライ語の名前をもつまでになり、夫妻の娘さんはニューヨークのユダヤ人学校に通っている。
クシュナー氏がいまや絶大な力をもつに至ったトランプ新政権の人事自体も、「シオニズム(神に約束されたパレスチナの地に帰り、そこでユダヤ人国家を再興しようとする運動)」を奉じるイスラエル右派たちにそうとう配慮しているのは確かだ。たとえば、トランプ陣営の選挙対策チームの最高責任者であったスティーブ・バノン氏を、新政権の首席戦略官に推薦したことはよい例だろう。
バノン氏は民主党のみならず、共和党のエスタブリッシュメント層をも敵視し、反グローバリストであることを喧伝しており、「白人至上主義者として知られ、反ユダヤ主義者として非難されてもいる」(『ハフィントン・ポスト』16年11月15日)はずの人物だが、クシュナー氏はバノン氏推薦の理由の1つとして、氏が「熱心なシオニストであり、イスラエルを愛しているから」と答えている(『フォーブス』16年11月22日)。
他にも、一時期、国務長官候補とされたのはブッシュ政権によるイラン攻撃計画に反対して中央軍司令官を辞任したファロン海軍大将の後任となったデヴィッド・ペトレイアス氏(元CIA長官)であり、国防長官には「狂犬」というあだ名をもつジェイムズ・マティス退役大将が指名されたが、いずれも対イラン戦争の推進にきわめて熱心な人びとだ。
ちなみに、私の友人の英軍特殊部隊の元将校は、かつてアフガニスタンでペトレイアス氏の指揮下にあったが、「彼は作戦立案と運用においてきわめて優れた軍人であった」と回想していた。ただ、CIA長官を不倫疑惑で辞任した過去があるペトレイアス氏は、米国の政策がイスラエルの強い影響を受けることに必ずしも賛成しておらず、このことからペトレイアス氏ではなく、レックス・ティラーソン氏(エクソンモービル会長兼CEO)が国務長官に選ばれたものと推察する。
更新:11月22日 00:05