2017年01月20日 公開
2022年12月07日 更新
朴大統領退陣にともない、わが国がいちばん危惧するのは慰安婦問題解決の合意遵守(在ソウル日本大使館前の慰安婦少女像撤去はいまだ実施されず)と、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の履行である。
ところが韓国大統領選挙を控え、次期大統領として取り沙汰されている有力候補は、いずれも北朝鮮シンパとされる「従北派」であり、「親中」「反日」を旗印にしている人びとである。
韓国の世論調査会社ギャラップの調査(2016年12月9日)では、各大統領候補の支持率は最大野党である「共に民主党」の文在寅前代表が20%。潘基文国連事務総長も同じく20%。3位の李在明城南市長が18%。4位が野党「国民の党」の安哲秀前共同代表で8%となっている。
文在寅は2012年大韓民国大統領選挙で朴槿惠と大統領の椅子をめぐって激しく争った人物であり、結果は48%の得票数を獲得するも敗北した。文は盧武鉉元大統領の下で外交安保会議の重責を担った。大統領秘書室長を務めたが、2007年に国連の北朝鮮人権決議案の採択前に北朝鮮に「内通」したことが明らかになっている。また2016年7月には竹島へ上陸し、慰安婦合意・GSOMIAの破棄を明言するなど「反日派」でもある。
潘基文国連事務総長は英国誌『エコノミスト』が「歴代最悪の事務総長」と批判し、「無能」「縁故主義」「国連を私物化」「透明人間」などと世界中から酷評されてきた人物である。中国に対しては過度に配慮し、日米欧の首脳らが欠席するなか、抗日戦争勝利70年記念行事の軍事パレード等に参加し、香港の大規模デモに対する中国政府の対応を「内政問題」と擁護するなど以前から韓国大統領就任を意識してきた。おそらく韓国大統領になれば、中国へさらに配慮した政策を打ち出すものと見られる。
李在明は「韓国のトランプ」と呼ばれ、過激な発言で知られた人物であり、城南市役所前に新しい慰安婦少女像を建立。「朴正熙元大統領は日本軍将校出身で、日本軍慰安婦を真似して米軍慰安婦制度をつくった」と主張するほか、朴大統領を「日本のスパイ」と批判し、財閥解体や北朝鮮との無条件会談を主張し注目を浴びている。日韓両国がGSOMIAに署名した際には「日本は敵性国家であり、日本が軍事大国化する場合一番先に攻撃対象になる場所は朝鮮半島であることは明らかだ」と訴えた。不倫疑惑や経歴詐称、論文剽窃で修士号が取り消されたほか、側近が不正事件で逮捕されるなど弱点の多い人物でもある。
安哲秀は2012年大韓民国大統領選挙で野党候補一本化のため、出馬を文在寅に譲った経緯をもつ。慰安婦問題については「日本の謝罪と賠償なしに未来志向的な関係をつくり難い」とし、THAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備についても「理念論争ではなく徹底的に国益の観点で見るべきであり、得るものよりも失うものが多い」と反対姿勢を鮮明にしている。
程度の差こそあれ、誰が大統領になっても日韓関係が好転することは難しそうな面々だといえるだろう。
韓国で「この程度の人物」しか大統領候補に挙がらないというのは、国民世論と無関係ではない。韓国はもはや左翼勢力の浸透を防ぐのではなく、彼らに支配された国家機関をどのように奪還するかという段階にある。
朝鮮戦争の際、北朝鮮の攻撃によって韓国は百数十万人もの犠牲者を出しながら、従北派になる心理はわれわれには理解しづらい部分があるが、心理学でいうところの「ストックホルム症候群」が正鵠を得ているのかもしれない。誘拐された人間は長時間、非日常的体験を共有することで犯人へ信頼や愛情を抱くようになるという。長期にわたる休戦状態と北朝鮮と韓国が同じ朝鮮同胞であることや北朝鮮による韓国国内での工作活動、全教組(全国教職員労働組合)による左翼教育が加わり、従北派は勢力を拡大していった(韓国における北朝鮮のスパイ活動史は拙著『韓国「反日謀略」の罠』〈扶桑社〉にて詳述)。
韓国の左傾化には民主化運動が深く関わっている。韓国で民主化を叫ぶ勢力の主力は自由主義者たちではなく、従北派であった。「軍事政権=悪」という戦後日本の短絡的な思い込みで韓国の民主化を讃えるのは誤りであり、これが東アジアの安定と秩序を狂わせた転換点であった、と後世の歴史家たちはその史書に書き加えるであろう。
金大中・盧武鉉大統領が政権を執った約10年のあいだ、国会議員をはじめ、行政・司法・立法などの主要な地位は従北派が占めるようになった。韓国軍までもこれまでの「大韓民国在郷軍人会」に対抗した「平和在郷軍人会」という組織をつくり、従北を支援する動きを取りはじめている。
従北派の狙いは「韓国の内部崩壊」「日韓・米韓関係の悪化(反日・反米)」であり、「中国への従属(親中)」である。
そして彼らは日本の左翼勢力とも密接な紐帯を有している。たとえば沖縄の「高江ヘリパッド問題」では、アメリカ海兵隊の基地である北部訓練場返還をめぐって抗議活動が展開されたが、運動に多くの韓国人が交ざっていたことがインターネットで報じられている。その根底にあるのは、在韓米軍撤退を主導する韓国の従北派が日本の左翼と共闘しているためである。
もともと、前述した全教組は親北朝鮮であった日教組が韓国で創設を指導し、韓国の労働組合(韓国労働組合総連盟〈韓国労総〉、全国民主労働組合総連盟〈民労総〉)創設も日本の労働組合が支援するかたちで広まったが、いまや従北派の勢力は巨大化し、日本の左翼運動を逆に指導するかたちへと変貌した。この一連の背景を知らなければ、なぜ彼らが日本の政治運動に参加しようとしているかの真相に近づくことはできない。
更新:11月26日 00:05