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空港整備の「上下一体化」を民営化の足がかりに

2010年11月24日 公開
2023年09月15日 更新

松野由希(政策シンクタンクPHP総研特任研究員)

松野由希

社会資本整備特別会計の一勘定である空港整備勘定(以下、空整勘定)には、全国に無駄な空港を作ったとの厳しい批判があります。事業仕分けの結果、「廃止(早急に民営化等を進めることとするが、当面は暫定的に区分経理)」するとの結論が出ました。今回は空整勘定の仕分け結果の持つ意味について検証します。

まず、特別会計の枠組みのあり方について、「当面は暫定的に区分経理」するとされたことは評価できます。空整勘定は航空機の発着に伴う着陸料や使用料、航空機燃料税などを、空港の整備・維持運営に充てています。現在、空整勘定には羽田空港の再拡張の整備費用として、約1兆円の借金がありますが、受益と負担の関係が明らかであることから、区分経理を維持したうえで、空港使用料をもとに返済していくことになります。

次に、空整勘定を最終的には「廃止」するとした結論が出ていますが、これについては、実態を変えずに制度だけを表面的に廃止しても意味がないということが言えます。今後の空港整備に関わる公的な関与のあり方をどうすべきか考える必要があります。例えばイギリスやドイツには空整特会はありませんが、アメリカ、フランスには存在し、空港別収支を明らかにした上で補助金の申請と交付が行われています。補助金の使途が明確になっていれば、補助金があることや、補助金が特別会計制度によって維持されていることは、問題視されないでしょう。空港別の予算の使途は今回の概算要求でも明らかにされておらず、こういった透明性の欠如が、制度への不信感につながっているのです。

最後に、「早急に民営化等を進める」ことを念頭において、特別会計の財産と借金のあり方について、「上下一体化」が示されたことは評価できます。上下一体化とは、滑走路などの基盤部分と、ターミナルや駐車場などの施設部分を一体として管理運営する方式で、諸外国では一般的に行われている方式です。

全国に98ある空港のうち国が管理している28の空港では、滑走路などの下物は国が、ターミナルビルや駐車場などの上物は民間企業や公益法人、地方自治体が担うという上下分離方式で運営がなされてきました。しかし、駐車場を運営している財団やターミナルビルを運営している会社が国土交通省OBの天下り先であることや、ターミナルビルの賃貸契約が民間とはいえ、独占的な形態であることが指摘されています。もし上物を運営している企業などが独占的な地位を利用して過大な利益をあげているのなら、その利益を空港使用料の増額という形で空整勘定に還元して、赤字である空整勘定の負担を減らすことが可能です。このような上下一体への転換は妥当であり、民営化への足がかりとなります。

今後は民営化を進めるための具体的な見直しの方向性を考えていく必要がありますが、今回の仕分けではそこまで踏み込むことはできませんでした。仕分け結果を受けて、国土交通省は、民営化を含めた空港運営のあり方についての検討会を11月中に設置するようです。今後の議論の行方が注目されます。

(2010年11月15日掲載。*無断転載禁止)

img01.jpg 松野由希 (まつの・ゆき
PHP総研政治経済研究センター特任研究員
宮崎県生まれ。2000年法政大学経済学部卒業。2006年法政大学大学院社会科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。黒川和美研究室(公共経済論)。2006年より3年間、財団法人運輸政策研究機構運輸政策研究所研究員。2009年よりPHP総研特任研究員、法政大学理工学部非常勤講師。2010年より嘉悦大学経営経済学部非常勤講師。専門は交通経済・公共経済。

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