Voice » Voiceインフォメーション » 新連載「プリンス』スタート記念、真山仁氏特別インタビュー
2016年06月11日 公開
2024年12月16日 更新
――いよいよ『Voice』7月号より、大型連載小説『プリンス』がスタートします。本作の読みどころを教えてください。
真山 『ハゲタカ』シリーズでは、「お金は人を幸せにできるか」という問いがテーマの一つでしたが、本作『プリンス』では、「民主主義は人を幸せにできるか」を問題提起したいと考えています。これは日本だけでなく、いま大統領選挙を控えるアメリカを含め、世界中で起きている問題の背景となるキーワードではないでしょうか。
――東南アジアを舞台にされた理由はどの点にあるのでしょうか。
真山 日本人はアジア諸国にもっと関心をもつべきではないかと考えています。21世紀の成長エンジンと呼ばれている東南アジアに対して、経済の視点だけではビジネスの成功は難しい。
今回は、あえて東南アジアを舞台に、経済ではなく政治を重視して物語が展開します。それは、新興国における最大のリスクが政治であるからです。政治が安定しないと、経済成長はおぼつかないという現実もあらためて見つめ直したいと思っています。
たとえば、日本は経済は一流、政治は三流といわれていました。しかし、日本の経済成長は、政治が安定していたから成し遂げられました。
――だから東南アジアは「日本をモデルに民主化し、経済成長したい」と考えたのですね。
真山 ただ、東南アジアの為政者が、日本の経済成長の背景に政治的安定があったのを知っていたかどうかは、疑問です。彼らは表出した結果だけに目を奪われている気がします。
――日本人でも、その構図を理解している人は意外に少ないかもしれませんね。『プリンス』は、東南アジアが舞台ですが、当時の日本の政治経済の本質を知ることもできそうです。
真山 東南アジア各国はいずれも、長い軍事独裁政権を経たうえで、民主化の途上にあります。
形式上は選挙によって大統領や国会議員も選ばれている。しかし、実質的には独裁者による専横が続いていたり、言論統制や基本的人権の侵害が日常化している国が少なくありません。
そのため、軍事独裁政権が悪で、民主化運動は善だという先入観もあります。
ただ、独立国になるためには、内乱を鎮圧したり、国境問題を解決するなど、軍による治安維持を最優先しなければならないステージもあるのを忘れてはなりません。
つまり、民主化の過程を丹念に辿ると、民主主義だけが本当に人を幸せにし、国を豊かにできるのかという疑問も湧くはず。
昨年、日本でも若者が民主主義の大切さを訴えたデモを行ない、にわかに民主主義を考えるムードが盛り上がってきました。
しかし、彼らが、民主主義がもつ功罪を理解したうえで訴えているのかが、私には疑問でした。
『プリンス』は、東南アジアを舞台にしていますが、いま日本で話題になっている民主主義についても考えるきっかけになれば何より嬉しいです。
更新:12月22日 00:05