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消費税増税は凍結すべし!

2016年04月26日 公開
2023年01月12日 更新

本田悦朗(内閣官房参与/明治学院大学客員教授)

すでに市場にはリーマン・ショック級の影響が

 

 消費税率の10%への引き上げの留保条件である「リーマン・ショック級の経済的ダメージ」に関し、米コロンビア大学のスティグリッツ教授は今年3月16日に首相官邸で行なわれた第1回国際金融経済分析会合の席で、「2015年は(08年ごろの)金融危機以降、最悪の状況だったが、16年はさらに弱体化する。世界的な需要不足が加速している」(2016年3月17日付『朝日新聞』)と発言した。また、俗に「恐怖指数」とも呼ばれ、投資家心理を反映するといわれるVIX(ボラティリティ・インデックス)指数の推移を見ても、年初来すでにマーケットにはリーマン・ショック級の影響が起こった、と理解してよい。

 それゆえ安倍総理には、消費税再増税は1年や2年といった期間を定めずに「凍結」することをできるだけ早く決断し、国民に「安心してください」というメッセージを送っていただくことを期待したい。

 期限を定めた「延期」では、「どうせ来年また増税するのだから」というふうに消費者が考えてしまい、買い控えや節約行動に流れる可能性があるからだ。したがって、緩やかなインフレマインドが定着し、景気がよくなるまではむしろ増税の話について触れないほうがよい。増税慎重派のなかでも、「GDPの推移などをぎりぎりまで見て、日本経済が増税に耐えられるかどうかを見極めてから、消費税を上げるか否かを決断すべきだ」という人もいるが、私は賛成できない。まさに「2017年4月1日に消費税を10%に引き上げる」という予定自身が、現在の消費を低迷させているからだ。その予定を打ち消さないかぎり、消費喚起につながることはありえない。

 さらに、もし真っ白いキャンバスに政策を描けるなら、当面、消費税率を8%から5%に一度引き下げる。そして、2年ほどで景気を回復させることができれば、そこでデフレ完全脱却宣言を行なう。その後は、それこそ経済への影響を見極めながら慎重に1%ずつ消費税率を上げていき、最終的には8%に戻す。これが最も安全かつ確実な方法だと思うが、いまの政治状況から見て、この案を実現させることは無理かもしれない。

 そうであるならば、せめて消費税率を8%から7%に1%、下げるべきだ。あるいは、軽減税率の議論でいうなら、標準税率8%に対して食料品への税率を5%に下げ、全体的な消費の回復を待ってみてもいい。

 いずれの政策も財務省は猛烈に反対するだろう。だが、消費税率をたった1%でも一度下げることは、国民に対する安倍政権の強いメッセージとして非常に大きな意味がある。「皆さんの生活を安定させるため、今回は消費税を1%引き下げます。いずれ景気が回復したあと、国民の皆さんに負担をしていただくことになりますが、いまは税率を引き下げるときです」というメッセージが伝われば、消費態度は様変わりするだろう。ただし、これまでの経緯を見れば、減税を実現することはきわめて困難であろう。ならば、最低限、来年4月の増税は凍結すべきである。

 

マイナス金利と量的追加緩和の「合わせ技」

 

 今年2月、上海でG20(20カ国財務大臣・中央銀行総裁会議)が開催され、共同宣言に次のような文言が盛り込まれた。

「金融政策は引き続き、中央銀行のマンデート(引用者注:委任された権限)と整合的に、経済活動と物価安定を支えるだろう。しかしながら、金融政策のみでは、均衡ある成長に繋がらないだろう。我々の財政戦略は成長の下支えを企図しており、強靭性を高め債務残高対GDP比を持続可能な道筋に乗せることを確保しつつ、経済成長、雇用創出及び信認を強化するため、我々は機動的に財政政策を実施する」

 この宣言からも読み取れるとおり、今後は金融政策と財政政策をいわば車の両輪として、日本経済を再び成長軌道に乗せていく必要がある。

 金融政策については、今年1月の日銀政策決定会合でマイナス金利政策という新たな武器が用意された。マイナス金利そのものは、量的金融緩和の政策ほど強い効果をもっていないかもしれない。経済に大きな影響を与えるのは長期金利だが、マイナス金利政策は直接的には短期金利に働きかけようとするものである。

 それでも日銀が説明するように、「短期金利すなわちイールドカーブの出発点を下げれば、金利は全体的に下がるはず」で、実際、いまや十年物国債の金利もマイナスに突入しており、政策の効果はそうとう出てきていると考えられる。

 日銀は民間金融機関が保有する国債などを買い取り、資金を供給する「買いオペ」を行なっているが、その決済に用いられるのが日銀当座預金である。日銀当座預金残高のうち、各金融機関がすでに積み上げた残高(基礎残高約210兆円、金利プラス0・1%を適用)および各金融機関が最低限、預け入れなければならない所要準備額など(マクロ加算残高約40兆円、同0%)を除く新規預金向けの政策金利残高約10兆円に現在、マイナス0・1%の金利が適用されている。

 今後、マイナス0・1%の金利をマイナス0・2%に拡大すると同時に、いま年間80兆円ペースで実施されている買いオペを90兆円ペースに増やし、量的追加緩和も「合わせ技」として行なえば、さらに強力な武器になるだろう。

 問題は、追加緩和を「いつやるか」である。いま日銀は予想インフレ率や実際のインフレ率、総需要と潜在的な供給力との差であるGDPギャップなどの推移を見極めながら、マイナス金利政策の波及効果を慎重に見定めている。おそらく、ここぞというタイミングで「次の一手」を打つはずである。景気の低迷が続けば、今年前半にでも追加緩和が行なわれるかもしれない。7月の参院選の前にも追加緩和が実施されるという説があるが、これも可能性としては十分にありうる。

 

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