2015年10月31日 公開
2016年11月11日 更新
冷却化した日韓関係の修復も朴大統領に課せられた難題の一つである。
朴大統領は、式典と軍事パレードへの出席の見返りとして習主席から早ければ10月末、遅くとも11月中に日中韓首脳会談を開催することで同意を取り付けた。
朴大統領が三カ国首脳会談に積極的なのは、仲違いしている世界第2位の経済大国・中国と3位の日本のあいだを取り持つことでホスト国・韓国の国際的地位を高めることにある。また、北朝鮮の核問題で3カ国が足並みを揃え、北朝鮮に圧力を掛けることも狙いの一つだ。そして何よりも歴史認識の問題で中国と協調し、安倍総理に対して戦後70年談話で触れた歴代内閣の歴史認識を確実に継承し、行動で示すよう促すことにも狙いが隠されている。
歴史認識の問題は、今回の中韓首脳会談ではほとんど言及されなかった。しかし、朴大統領は8月15日の日本の植民地支配からの解放を祝う「光復節」70周年の演説で、安倍晋三総理の戦後70年談話に触れ「残念な部分が少なくない」と批判した。
中国も華春瑩・副報道局長が談話を発表し、「日本は、あの軍国主義侵略戦争の性質と責任に対してはっきりかつ明確な説明を行ない、被害国国民に真摯なお詫びを行ない、重大な原則的問題でごまかしを行なってはいけない」と反発した。それでも中韓とも日本との首脳会談開催に前向きになったのは、談話に一応「植民地支配」「侵略」「痛切な反省」「お詫び」の4つの「キーワード」が書き入れられたことにもよるが、首脳会談の席で安倍政権に「痛切な反省」と「お詫び」を行動で示すよう圧力を掛けることにある。そのことは、尹炳世外相が岸田文雄外相から談話について電話で説明を受けた際「日本政府の誠意ある行動が何よりも重要だ」と応じたことからも明らかだ。
朴大統領は中国滞在中、『人民日報』(9月4日付)との書面インタビューで「歴史は悠久に流れ永遠に残るものであり、それを認めまいとするのは掌で天を隠そうとする行為にほかならず、自身の能力に対する過大評価」と遠回しの表現ながら安倍総理を批判していた。さらに「現在、北東アジアで起きている各種の軋轢と対立を平和と協力の秩序に戻すためには、領域内国家間の正しい歴史認識に基づき新たな未来に進もうとする共同の努力が必要だ」と述べたことから、日中韓3カ国首脳会談で歴史認識問題を持ち出す可能性はきわめて高い。しかし、その一方で、日韓関係が長期間にわたって冷却したことで日本からの観光客の減少や日本企業の韓国への投資の鈍化、日本国内における韓流ブームの衰退、ヘイトスピーチの台頭などの弊害が生じたことで日韓関係を早急に立て直す必要性にも迫られている。
朴大統領は日中韓首脳会談の流れのなかで、安倍総理との初の日韓首脳会談に応じることになるが、その前に急を要して解決しなければならない問題がある。日韓関係の最大のネックとなっている従軍慰安婦の問題である。
日韓は昨年4月から今年9月まで慰安婦問題などを話し合う局長級協議を9回行なってきたが、依然として隔たりが大きい。韓国国内では、6月11日に東京で行なわれた8度目の協議の翌日、朴大統領が『ワシントン・ポスト』とのインタビューで「韓日のあいだでそうとうな進展があった。交渉は最終段階にある」と発言したことで期待感が高まった。
韓国側の情報によれば、これまでの交渉で韓国は日本政府が法的責任を認め、安倍総理が謝罪し、謝罪の手紙を駐韓日本大使が慰安婦らに直接手渡し、慰労金を政府の予算から拠出させるよう求めているのに対して、日本は従軍慰安婦問題が最終的に解決、決着したことを韓国政府として担保する、解決した証しとして、日本大使館の前に設置されている慰安婦少女像や慰安婦の碑を撤去することなどを求めているとされている。
日本は慰労金を政府が拠出することは国家の関与、法的責任を認めることとして依然として難色を示しており、韓国もまた日本が提示した条件を「これでは、プラスアルファでなく、マイナスアルファだ」として反発していると伝えられている。
韓国メディアは、安倍総理の70年談話についてこぞって批判的だ。それは、記事の見出しを見れば一目瞭然だ。聯合通信は「安倍談話、村山・小泉談話より後退」、『ソウル新聞』は「既存の談話を引用、形式的に言及」、『韓国日報』は「真実味がない」、『朝鮮日報』は「反省、謝罪しない談話」、『韓国経済新聞』は「過去形の談話」といずれも手厳しい。慰安婦問題で安倍政権から善処を取り付けられなければ、朴政権はマスコミや野党から叩かれることになりかねない。
日本とは経済優先か、それとも過去の問題か、朴大統領はこれまた板挟みになっている。どうやら朴大統領を生かすも、殺すも、安倍総理の手中にあるのは間違いないようだ。
北朝鮮のミサイル発射も朴政権にとっては頭痛の種だ。
北朝鮮が、10月10日の労働党創建70周年記念日に向けて長距離弾道ミサイル「テポドン」を発射しそうだ。北朝鮮の国家宇宙開発局長が9月15日、「世界は今後、労働党中央が決める時期と場所から、先軍朝鮮の衛星が大地を高く飛び立つのをはっきりと見るようになるだろう」と発射を予告したからだ。
失敗したものの2012年4月13日のミサイルも金日成主席生誕100周年(4月15日)に合わせて発射されているので、本誌が発売のころには発射されているかもしれない。
国際社会は、衛星であっても、弾道ミサイルの技術を使用していることから安保理の決議に反するとして容認しない立場だが、しかし、北朝鮮はこれまで1度も国連安保理決議を受け入れたためしがない。
土壇場でオバマ政権が打開案を出すか、あるいは中国の習主席が中国の主席として10年ぶりに訪朝し、党創建式典に花を添え、金正恩政権への支持を表明すれば、話は別だが、現状ではどれも絵に描いた餅である。まして韓国とのチキンレースで腰砕けとなり最高司令官としての面子を失い、権威を失墜した金第1書記としては失地回復の手段として、また抗日70周年式典で朴大統領がど真ん中なのに側近の崔竜海書記が隅の席に追いやられ晒し者にされるなど、冷遇された中国への当てつけとしてもミサイルのボタンを押すだろう。
北朝鮮がミサイルを発射すれば、国連安保理が招集され、制裁の強化が検討されることになる。そうなれば、朴大統領の成果であった10月20日から予定されている南北離散家族の再会事業も吹っ飛んでしまうだろう。仮に、北朝鮮が過去の事例に従い、国連の制裁決議に反発して四度目の核実験を示唆するようなことになれば、11月ごろまでに予定されている日中韓および日韓首脳会談は歴史認識どころの話ではなくなってくる。
北朝鮮がミサイル発射を示唆する前の9月10日、韓国の韓民求・国防相は、10月16日の米韓首脳会談では「現在のところTHAADの配備は議論されないものと理解している」と述べていたが、その前に北朝鮮が米本土を射程にする長距離ミサイルを発射すれば、米国からのプレッシャーが強まるのは避けられない。
ハリー・ハリス米太平洋司令官は米上院軍事委員会の公聴会に出席(9月17日)し、「THAADを韓国に配備することが重要だと考えている」と主張していた。仮に米韓首脳会談でオバマ大統領が持ち出さなかったとしても、11月上旬に予定されている米韓国防長官会談では議題となるのは確実だろう。
オバマ大統領の顔を立てれば、習主席が機嫌を損なうことになり、朴大統領の二股外交は大きな試練に立たされるだろう。
更新:11月22日 00:05