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なぜドイツ人は、一瞬でおつりの計算ができないのか

2015年07月30日 公開
2024年12月16日 更新

川口マーン惠美(作家/評論家/ドイツ在住)

財政赤字ゼロでも散々なドイツ

誰にとっての「よい子」なのか

 ――本書『なぜ日本人は、一瞬でおつりの計算ができるのか』は2007年に川口さんが書かれた『母親に向かない人の子育て術』(文春新書)の続編ともいえる、と「はじめに」にあります。

実際、「逞しい娘たち」に育った8年後のお子さんの姿が描かれていて印象的でした。たとえば三女のYさん。

大学時代にNGOのプロジェクトで14カ月間アルバニアに渡り、迫害されたロマ(インドに起源をもつ移動民族。昔はジプシーと呼ばれていたが、現在は差別的呼称で用いられない)の子供の援助にあたる行動力。正しいと思うことを、信じたままに行動する姿に胸を打たれました。ドイツの環境で育ったことが、こうした強さを養ったのでしょうか。

(川口)べつにドイツ育ちだから、ということはないと思います。実際、海外にボランティアに出る日本人は多いですし、Yがヨルダンの難民キャンプを訪れたときには、現地で難民の支援に携わる日本人夫婦と知り合ったそうです。

その夫婦は当初、イラクでシリアから来た難民の支援をしていたのですが、ISISの侵攻でイラクでの支援活動が難しくなり、今度はヨルダンに来てイラク難民の支援をするようになった、という。正義感や行動力で日本人と外国人とのあいだに違いはない、と思います。

社会としてのドイツの違いを挙げるならば、ボランティアに携わるうえでの社会的ハードルが低いこと。たとえば高校卒業後に1年間、ボランティア活動をしてから進路を決める、というケースはごく普通です。

日本のように高校を卒業したらすぐに大学入試や就職、という考え方はない。皆、基本的に自分がやりたいこと、就きたい職業を探しつつ、試行錯誤しているようです。

よく思うのですが、日本人は行動や進路を決めることに対して、自ら縛りを掛けているような気がします。

「思ったとおりに動きたい」けれど、そんなことをすれば、一方では、自分の選んだ進路や行動に責任を負うリスクがあって、面倒でもある。それに、失敗して周囲から非難を浴びるより、皆の言うとおり、期待どおりに振る舞っていれば、いちおう無難。そう考える人には、日本は生きやすい国ともいえます。いわゆる素直で「よい子」が多いですね。

ただ、その半面、「よい子」とはいったい何なのだろうか、と考えてしまう。「よい子」というのは誰にとってよい子なのか。親にとってよいのか、教師にとってよいのか。

いずれにしても、子供自身の尺度は度外視されています。「よい子」を求めるのは親の願望にすぎない。このことに気付いてから、私は子育てにおいて親としての尺度を極力、挟まないようにしてきました。逆らう子のほうが、生きていく力があるのではないかと。

――それにしても、セルビア、コソボの国境を越えるというのにお嬢さんの所持金がたった20ユーロ(約2400円)というのは、親でなくても背筋が凍るような話です。

(川口)「言語道断」以外の言葉が見つかりません(笑)。もちろん私だって、最低限の躾はしてきました。たとえば道にゴミを捨てないとか、人の嫌がることはしないとか。

ドイツ人は、ゴミは捨てるし、犬のフンはそのまま……。娘が一度、リンゴの芯を車の窓から捨てたことがあって、私にしては珍しいほど叱りました。

すると後日、同じ状況でまたリンゴを食べていたので、私は運転しながら「さて、どうするかな」と様子を窺っていたら、見られていたのを知っていたのでしょうね。最後、見事に芯まで食べちゃった(笑)。たまに怒ると、効果がありますよ。

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