2015年03月23日 公開
2022年12月22日 更新
――全社員が一丸となって目標達成に向かっていく、というのは、伝統的な日本の会社が得意としている部分ではないでしょうか。
【南場】それはそうですが、日本の場合は、リーダーシップを発揮した人のパッションを共有するのではなく、「会社」といった実態が不明瞭なものに対する忠誠心で1つにまとまる傾向があります。
でも、その構造は終身雇用が保障されていないと維持できません。そこが崩れ始め、一つの組織に固定的に従属して一生を終えることが難しくなっているなかでは、全社員の心が纏まってパフォーマンスを発揮することもなかなか叶わなくなってきているのではないでしょうか。
――だから、日本でもパッションを伝える力を付ける教育が必要だ、と。
【南場】それが日本に求められている力の1つ目ですね。そして、先ほど申し上げた2つ目のクリエイティブな課題解決の能力。これは、正解が1つではない問題に対して取り組む力のことです。
受験勉強のなかで身に付くのは、答えが1つである問題を解く力ですが、現在のわれわれの前に立ちはだかる多くの社会的課題は、そんな簡単に正解が出るようなものではありません。
何が正しいかはわからないけれども、課題に取り組み、そこから新しい価値を創造していく能力こそが求められている。
3つ目の新しい付加価値を創っていく能力も同じことです。それはクリエイティビティそのものです。
4つ目の共働力も、いまの教育のなかではほとんど養われていません。一部の大学ではグローバル教育が重視されるようになってきたものの、感受性の豊かな子供時代に異質な他者と共に働くことについて学びを深めることは難しいでしょう。
――4つの力を身に付けるには、そうとうな教育改革が必要そうです。現実的に可能でしょうか。
【南場】そこで私はプログラミング教育が、4つの力の問題をある程度解決する「オヘソ」になるのではないかと思っています。
その意味で、小学校1年生に授業でプログラミングを教えた佐賀県武雄市での教育実験。すごく手応えが良かったですよ。
――先日、学習成果の発表会があったそうですね。
【南場】教えた40人全員の生徒が、当社の用意したソフトでアプリを作ることができました。もっとも多かったのはゲームでしたが、なかには動く絵本のようなストーリーのある作品を作った子もいました。
1つ例を挙げると、作り始めたのがクリスマスの時期だったのですが、「サンタさんが子供たちの家にプレゼントを届けるプログラムを作りたい」と言い出した子がいました。
その子は、実際に自分で描いたサンタさんの絵が家の絵にぶつかるとプレゼントを置いて、そのプレゼントが点滅する、という作品を仕上げました。ステージに立って発表してもらいましたが、「すごーい」と大人たちから歓声が上がりましたよ。
余談ですが、発表会のあと、プレゼンテーションも含めて私たちが素晴らしいと感じた作品を表彰しました。すると選ばれなかった生徒が泣き出したそうです。
よほど自分の作品に愛着があったのでしょう。普段、感情を発露する授業や経験は限られますから、先生側からすれば思わぬ収穫だったようです。
――小学校1年生でも、クリエイティブなプログラミングができるものなのですね。
【南場】自分の心の中にある"作ってみたい!"というパッションをプログラミングで作品として表現する、という課題に向かって、その子ならではの創造力を発揮させた結果です。
そして、その作品はみんなの共感と感動を呼ぶことに成功しました。
授業を受けた子供たちは、もう日本人に必要な力のうち3つを発揮できたわけです。次はオンラインで海外の小学生たちと繋がり、チームをつくり、みんなで一緒に作品づくりをしたら共働力も養えますよね。
プログラミング教育に秘められた可能性の大きさを感じませんか。
――なるほど。教育改革だと身構えなくても、プログラミング教育の導入で、おのずと子供たちは4つの力を身に付けていける。そうなると、大人たちもプログラミングを覚えて自分を変えていかないと、時代から取り残されそうですね。
【南場】いやいや、好きな人はチャレンジすればいいのですが、IT素養に乏しい大人が無理やりプログラミングを覚える必要はありません。苦手なことを必死にやるよりも得意なことで世の中に貢献しましょうよ。
たとえば、子供たちや若い人たちがプログラミング教育を当たり前に受けられる環境づくりに賛同するなど、いますぐできることに意識を向けていただけたらいいな、と期待しています。
更新:11月23日 00:05