2015年02月10日 公開
2022年08月15日 更新
――生活保護がなぜ受けられないのか、福祉行政は何をしているのか、と憤りを覚えます。
鈴木 出会い系シングルマザーの場合、当人が行政の支援を拒否する側面もあります。彼女らにとっての最大の恐怖は、自分の子供を児童養護施設などに「奪われ」てしまうことだからです。「私自身が施設で育ったから、どれだけ寂しいかよくわかってる」と話すシングルマザーもいました。
とても難しい問題だと思うのは、彼女たちの共通点にきわめて強い恋愛依存体質があることです。売春相手の男は「客」であるよりも、その場しのぎでも生活を支えてくれる「サポーター」に近い感覚をもっていたりする。そのなかから本当の恋愛に発展できる相手が見つかることを期待し、一縷の希望を抱いていたりもする。それほどまで孤独で辛い思いをしているのです。
――そうだとしても、そのまま社会が知らぬ存ぜぬで放置していい問題とは思えません。
鈴木 もちろんです。行政や国の視点からこの問題を考えるなら、これからの日本の生産人口はどんどん減っていきます。遠からず、外国人労働者を受け入れなければやっていけない時代になるでしょう。そんな国にあって、最貧困層の「手」を使わないのは大きな社会的損失です。働き手、成り手の「手」ですね。
前に「産む機械」と最低の表現をした政治家がいましたが、最貧困女子は生産人口を増やす「産み手」になるかもしれない。彼女たちは国にとって重要な資源です。自国にある資源は最大限に有効活用すべきじゃないですか。
――彼女たちにはどんな仕事が向いているのでしょう。
鈴木 まず、女性がはるかに男性よりも優れているといえる職業領域に、対人支援職がありますよね。セックスワークは酷い環境かもしれませんが、彼女たちに多くの考える機会を与えます。人の気持ちが人一倍理解できる人間を育てるのです。
他者に対する身体的距離感の許容力も非常に高いので、たとえば介護や看護、それこそ成り手がなくて困っている高齢者支援職などに就けば、驚くほど適性を発揮する可能性がある。介護職員の能力の低下が指摘されてもいますが、それは職業教育が足りないからです。労働時間に対する賃金が安すぎる問題もあります。
きちんとした教育を受ける機会と、まっとうな労働対価を得られるガイドラインがあれば、最貧困女子も高齢者支援職で十分に働けるはずです。
――家庭環境に恵まれていない子供がセックスワークの世界に取り込まれることの回避策として、鈴木さんは学童保育の改革を提起しています。
鈴木 放課後居場所ケアの視点で学童保育をめぐる議論は活発にされていますが、私にはまったくズレた話に思えます。7時間目、8時間目の発想で授業時間の延長線上に学童保育が位置付けられており、学校のように子供を管理しようとする。それでは本当に居場所が必要な子供たちのニーズと合いません。
学校が終わって子供たちが行きたい場所がゲームセンターやネットカフェであるなら、そこに学童保育機能をもたせるような方向性こそが、当事者の児童が求めるものではないですか。
それと親がご飯をつくってくれなくても温かい食事がとれる。親の暴力が激しいときは夜中でも身を寄せることができる。求められているのは、そんな学童保育です。心身を休ませてくれる空間です。
――ほかに、最貧困層の再生産を食い止めるには?
鈴木 進めてほしいと思うのは、小学校の先生やスクールカウンセラーと児相(児童相談所)の職員との連携です。なんだかんだいって子供の様子をよく見ている地域の大人は学校の先生ですから、「この子の様子がおかしい」と気付いたら、すぐに連絡ができる関係にあってほしい。
また、生保(生活保護)のケースワーカーも在宅訪問をするので、問題を抱える児童の早期発見者となりえます。生保と児相のパイプづくりも重要です。
なにより、たとえ少女やその母親がセックスワークに関わっているとしても、社会が彼女らを否定せず、その存在を認めることが肝心です。自己責任論では解決できない当事者たちの実態を知る人が、少しでも増えていくことを願います。
更新:11月22日 00:05