2015年02月10日 公開
2022年08月15日 更新
《『Voice』215年3月号[特集:ピケティと格差社会]より》
2008年の大晦日に、大量の派遣切りなどで仕事と住まいを失った失業者に寝場所と食事の提供、弁護士等による各種相談サービスを提供する目的で開設された「年越し派遣村」。東京の日比谷公園内で行なわれたこの支援活動を機に、貧困問題に関する報道が急増した。
その後しばらくメディアでの扱いは減っていたが、2014年1月にNHK「クローズアップ現代『あしたが見えない~深刻化する“若年女性”の貧困~』」が放送されたころから、再び貧困問題が注目を集めている。
裏社会や触法少年少女の取材を続ける鈴木大介氏が昨秋上梓した『最貧困女子』(幻冬舎新書)も話題の書だ。「取材相手の迷惑になるといけないから」とメディアでの顔出しをいっさい禁じている骨太のルポライターに、知られざる「貧困」の実態を聞いた。
<聞き手:オバタカズユキ(フリーライター)>
――リーマン・ショック後のような不況期ではないのに、なにかと「貧困」が注目されています。どうしてなのでしょうか。
鈴木 長く貧困層を取材してきた立場からいえば「何をいまさら」感が強いのですが、端的にいうと、国内で低所得者の割合が増え、貧困層も確実に拡大しているからだと思います。
厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、最低限の生活の維持に必要な収入を表す貧困線は2012年の段階で122万円、相対的貧困率(貧困線に満たない世帯員の割合)は16.1%。前回調査の09年から0.1ポイントですが上昇しています。
ただ、この調査の数字はあくまで納税者のデータから割り出したもので非常に曖昧です。実際には、納税対象にもならないわずかな稼ぎで生きている人びとが存在します。そしてそのうちの少なからずが、女性の場合はセックスワーク(売春や性風俗産業)、男性はさまざまな「裏稼業」の世界に埋没しています。
そうした統計にもカウントされない層の実態はどうなっているのか。ないことにされている人びとの姿を可視化したいと思い、私は裏社会に生きる彼ら彼女らを取材してきました。昔からその存在を否定され、社会が当人たちの辛さや苦しみに目を向けようとしない貧困層の問題を、皆さんに知ってもらいたいのです。
――『最貧困女子』はそうした鈴木さんの仕事をコンパクトな新書にまとめた一冊ですが、昨年は、博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平さんの『ヤンキー経済』(幻冬舎新書)もヒットし、「マイルドヤンキー」という若者たちの存在が知られました。その層と鈴木さんが追ってきた層とは重なる部分もありますか。
鈴木 いや、まったく別です。マイルドヤンキーは、強い地縁や血縁をベースとした生活で満足している低所得の若者層のこと。「お金がなくても、地元の仲間とつるんで楽しくやっていりゃいいじゃん」と語る郊外や地方の若者たちですね。僕も取材したことがありますが、彼ら彼女らは「地元を捨てて上京したら負け」といった意識をもっています。
ミニバンに乗り合わせて国道沿いのショッピングセンターやリサイクルショップに行けば、お金をかけず何でも手に入れることができる。「なのに、この経済的に逆風のなか、なんで家賃の高い東京に行かなきゃならないんだよ」となる。
興味深いのは、たとえタトゥーが入っていたりして派手な外見をしていたとしても、彼らは前の世代の不良と違って、親元から早く独立することをプライドにしていません。
20代後半、30代になっても、国民健康保険が親の扶養のままだったりして、実家に頼れる部分はずっと頼っている。その代わり、相応の収入が得られるようになったら、親にお金を返していく。「借りた金を親に返すためにも地元にいなきゃダメじゃん」と話すのです。
更新:11月22日 00:05