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今だから話そう、大震災のあの時あの現場―【第26回〔最終回〕】

2014年06月26日 公開
2024年12月16日 更新

熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

《政策シンクタンクPHP総研 研究員コラムより》

【第26回(最終回)】私は闘い続ける

 復興と行政刷新を担当されている大臣政務官一行が来られたのは5月14日。釜石市から大船渡市、陸前高田市まで随行し、現地の案内をすることが私の役割だった。震災対応のみならず、これから本格的な復興に道筋をつけていくために期待の大きい新日鉄釜石と太平洋セメント大船渡工場にはアポイントを入れ、現場の空気を直接感じ取って欲しい避難所や物資拠点などは飛び込みでの訪問とした。

 あらためて目の当たりにする被災地の惨状や、それに負けずに復興の足がかりを築き始めた被災者や企業の奮闘ぶりには、とても驚いているようすだった。が、心を寄せて終わるのではなく、さらに打つべき手を瞬時に判断して指示を出すあたりが、さすがの振る舞い。私は、この人たちにこのタイミングできてもらえて良かったと、素直にそう思った。そして、まずはいったん帰京させていただきたい、と正式に申し出た。

 「まずは帰京すべし」との連絡があったのは、18日の夕方だった。この時点では、京都で一週間ほど休暇を取ることを勧められただけ。その後、復興担当として再び現地に入るかどうかは未定とのことだったが、数時間後には行政刷新に戻ることで決まったとの連絡が入った。身勝手な思いを汲んでもらっての現地派遣であっただけに、被災地へ戻るべきではないかとの葛藤がなかったわけではないが、とても安堵したというのが正直なところだった。

 関係先へのあいさつ回りを経て、20日には帰京の運びとなった。今度は霞が関から、この状況を何とかしてくれ。被災地の言葉にならない苦しみを、どうか政治のど真ん中に伝えて欲しい。今度顔を合わせるときはもっと元気な姿でいたいから、急いで帰って来なくていいよ。あんまり一生懸命にならなくていいから、ゆっくり休んで。もう来なくていいから、あんたの仕事するところはここじゃないから。まわる先々で本当に温かい言葉をかけてもらって、私は心が震えっぱなしだった。闘う勇気をもらっていたのは、間違いなく私の方だった。

 気がつけば、被災地に派遣され現地対策にあたってから50日あまり。対して、この頃に現地対策室へ派遣されていた国家公務員は、約1週間での交代が基本のかたち。派遣された状況も異例ずくめだったが、派遣日数も他に例がないほど長期間となっていた。

 そのせいか否か。帰京後の私は、重い二次受傷と診断された。臨床の知識や経験がないにもかかわらず、被災者の方々の話を直接うかがい、本音を引き出し、心に触れ、信頼を築いていこうと思ったがために。そうでなくては、本当の支援のあり方なんて見いだせないと思ったがために。結果として、自分の心がパンクして重いPTSD(外傷性ストレス障害)の症状を引き起こしてしまっていた。ようやく全快したのは、被災地で多くの家庭が初盆を迎える頃だった。

 いまでも被災地に足を運ぶと、いろんな声が心に突き刺さってくるような感覚がする。怖さがないと言えば嘘になる。でも、相変わらずの光景を目にすると、帰任する日に送った最後のレポートを思い出す。そこには、こんなことが書かれている。

 「災害対策を万全を期すために対応マニュアルを整備したまでは良かったが、国・都道府県・市町村の役割分担を明確にしすぎたゆえに、また平常時に策定したものであるがゆえに、被災地での現場対応には機動性が著しく欠如している。行政対応そのものはシステム化されていても、そのしわ寄せが被災者に向かっているようではまったく意味がない」

 「被災地の未来を担っていくはずの子どもたちが、家を失い、遊び場を失い、そしていまは仮設住宅建設によって校庭も奪われようとしている。民有地活用の申し出は決して少なくないのに、手間暇がかかると敬遠され、手っ取り早く調達できるからと学校が最優先されるのはいかがなものか。中期的には、子どもたちに大きなひずみを生むのではないか」

 「がれき処理が遅れているというのは、一面的な見方でしかない。処理量を追求すると、どうしても大量に集積している地域が中心になるが、生活再建を急ぐならば浸水境界地域や居住・事業可能な地域こそ優先すべきだ。にもかかわらず、そうした地域調整はほとんどなされていない。そもそも、急ぐべきは都市機能の再生や生活の再建であって、今後の方向性すら見えていない場所の片付けを急いで何になるのか」

 こうして改めて見ると、ほとんど何も変わっていないようなことが多くはないか。復興を加速させると言われてはいるけれど、何かおかしなことがまかり通ってはいないか。そんな今だからこそ、あの時、あの現場でめぐりあった人たちの思いに応えなくてはいけない。声を上げなくては、やり残したことを片づけなくてはいけない。

 だから。私は闘い続けようと思う。どこにいても、どんな立場になっても。

(約半年間の連載におつき合いいただきありがとうございました。帰京・帰任を区切りとして、本シリーズは今回で最終話といたします。帰京後のことを番外編として掲載するかもしれませんが、現時点では未定です。)

研究員プロフィール:熊谷 哲☆外部リンク

 

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