2014年06月11日 公開
2023年09月15日 更新
《政策シンクタンクPHP総研 研究員コラムより》
震災後はじめて迎えるゴールデンウィークを境に、被災地では避難所避難者が激減していた。もっとも強く感じられたのは、避難所での生活にもう我慢できなくなったということだった。集団生活で自由がきかない、他人の目に囲まれて気持ちが休まらない、いつも同じような食事で飽きる、単調な生活の繰り返しでめいってくる。避難所を離れた理由として、そうした点を挙げる人がとても多かった。なかでも、2か月続く避難所生活の中で他者との小さなトラブルや諍いごとが増えてきていて、それを避けたいという人も数多く見受けられた。
前回取り上げた避難所のように、避難先の施設や家主から退居を迫られたという事例も目についた。具体的に何かを始める予定が立っているわけではないが、そろそろ生活や事業を再建していくための足がかりをつくりたいからという家主サイドの意向も、十分うなずけるものだった。また、高台側の地区の公民館に隣接地区の避難者を丸ごと受け入れた、というようなところで、感情的な衝突が解決不能な状況に陥っているところもあった。
一方では、浸水地域の地理的条件などから住み慣れた地区での仮設住宅建設に限界があり、希望しても実際の入居は厳しいということが明らかになったことから、いずれ離れなくてはいけなくなるのなら今のうちに条件の良いところに移り住んだ方がよいと、決断する人がいた。加えて、他市で仕事が見つかった、子どもの教育環境を考えて、など早期の生活再建のために移住を選択した人も増えていた。
避難所を離れた人たちの新たな住居となったところは、半壊した自宅の2階などがもっとも多かった。全壊家屋の住宅再建は抑制するよう通知がなされているが、半壊ならば再建の道がある。余震による倒壊などのリスクがあるが、やむを得ない。今のうちに既成事実を作っておこう。そうした動きは、罹災証明の手続きが始まり、東北電力が半壊家屋にも給電するようになってから加速していた。ただ、自分の意志ではなく、「(半壊でも)家があるのだからお前は帰れ」などと避難所で言われたから、という人も決して少なくなかった。
仕事を継続できているなど、資力に一定の見込みがある人は早い段階から自力で住居確保に動いていた。大船渡・釜石・気仙沼の多くは市内の内陸部に、陸前高田・大槌町・南三陸町は近隣市町に。民間賃貸住宅のみならず、空き家となっていた実家や別宅、使用していなかった長屋、廃用目前だった社宅など、さまざまな形態のものがいろいろな形で供用されていた。
もともと人口減少地域だったためにそうした空き家が多かったことと、民間賃貸住宅を仮設住宅として見なす方向性も示されたことから、加速的に入居が進んでいた。これらの状況に、内陸部の宿泊施設等への二次避難や、親族宅などへの同居などによる住居確保の動きも相まって、仮設住宅への入居申し込みが当初見込みを大きく下回るという事態につながっていった。
この頃の私は、ゴールデンウィークには久しぶりに家族と休日をともにし、その前後には同僚や旧知の知人・友人たちが頻繁に視察に訪れてくれて、少し気力を取り戻したつもりだった。だが、相変わらず不眠とフラッシュバックとひどい頭痛に悩まされ続け、毎日の睡眠時間は3時間もない。避難者の人たちと違って、ライフラインが整った家で、母親のつくる食事をとり、暖かい布団で寝られて、こんなに恵まれているのに。そう思えば思うほど、何か重いものがのし掛かってくる。
さすがにこれはまずいな。そう思い、ある避難所の医療支援チームのお医者さんに相談してみると、答えが早い。ご自身で思われている以上に心身が傷んでいる可能性がありますから、すぐに専門医に診てもらった方がいいですよ。こちらにいたままでは落ち着かないでしょうから、東京か京都に少し戻られてリフレッシュした方がいいんじゃありませんか。私は、ちょうど行政刷新担当の大臣政務官と参事官が視察に訪れるタイミングを見計らって、一時休養を申し出ることにした。
(つづく)
<研究員プロフィール:熊谷 哲>☆外部リンク
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更新:11月21日 00:05