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今だから話そう、大震災のあの時あの現場―【第21回】

2014年05月09日 公開
2024年12月16日 更新

熊谷哲(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

《政策シンクタンクPHP総研 研究員コラムより》

 

【第21回】釜石に現地対策室を移して欲しい 

 

 震災からひと月以上経って、前を向いて何とか歩みはじめようとしている様子の被災者も、直接お話をうかがってみると、それぞれの心に未だに癒えることのない傷みを持っていることが痛切に感じられた。

 例えば、テレビで津波の映像を見て震災当時を思い出し、泣き出したり怖がったりする子供がいる。昼間は気丈に振る舞っているものの、夜ひとりになって泣き崩れる中高生がいる。周囲に心を開かず、ふさぎ込んだ状態がずっと続いている高齢者がいる。仕事も家もなくなって飲酒に走り、周囲とトラブルを重ねている男性がいる。

 また、トイレが共用であったり仮設であったりすることから、水分補給を抑制し、体調を崩す人がいる。「地震酔い」の症状などから、恒常的なめまいや吐き気を訴える人がいる。乾燥する室内や粉じんだらけの屋外、栄養バランスをとりにくい食事などから体調を壊す人がいる。全国各地から現地入りした医療チームも精力的に活動しているが、さらに広範に、かつ継続的に対処するためには、一層の体制強化が必要だと思われた。

 こうした状況をつぶさに把握し的確に対応していくには、県庁に置かれた現地対策室ではやはり時間的・空間的距離が遠すぎる。4月19日づけの報告で、私は改めて体制見直しを求めている。

「現状は、みな一生懸命動いているものの、本省と県とのつなぎ役、政務の視察アテンドに追われ、せっかくの能力や現地機能を生かせていないように見受けられる。また、現地に幾度か足を運んでいるものの、遠隔地の対策室であることから、極めて限定的な情報把握にとどまっており、よって県の情報や県の調整への依存度が高すぎるように見受けられる」

「より現地対策室の機能を発揮していただくためには、

 1)市・町や県との間に立って、課題解決のため総合調整の役割を担うこと、

 2)市・町を単位とした室員の担当地域制を敷くこと、

 3)より現場に近い沿岸地域に、岩手県ならば釜石市に拠点を移すこと、

などについて、早急に実現することが望まれる」、と。

 この報告の直後、現地視察に訪れた副大臣にも同じ内容をお伝えした。「できることから手を打とうと思うが、すぐには難しいこともある。そのあたりの事情も含めて、君が汗をかいてくれないか」。ならばと、県・市町や民間団体などとの調整にあたることを正式に任に加えて欲しいと申し出た。検討はするが公には難しいだろうという言葉に、もっともだと受け止めつつも、私は忸怩たる思いだった。

 その副大臣に、地元の商工業者のための緊急対策を求めている市長がいた。キョトンとする副大臣に熱弁を振るっているが、その内容は数日前に経産省からプランが示され、すでに東北経済産業局から商工会議所に連絡も入っている。「こんな大事な時間に、わざわざ取り上げる必要性はもうない。部長も、そんなことすら報告もせずに、いったい何を準備していたのか」。

 ある避難所を訪れたら、ちょっとこれを見てくれ、と腕を引っ張られる。行って見ると、消石灰が数袋積み上げられている。『津波によって流出した海産物の撤去や防汚対策を(第12回に掲載)』と求めていたのだが、その応急対策として保健所から届けられたらしい。県庁に電話した私は、「避難している人たちに、自分たちで消石灰を撒いて何とかしろとあんたらは言うのか。いったい何を考えているんだ」と怒鳴り散らしていた。

 思うに任せないイライラがつのったせいか。それとも、疲れがピークに達したからなのか。いったん休みを取って東京か京都に数日でも帰ったらどうか、という副大臣の心遣いも、その時の私の様子を見てのことだったに違いない。温かい配慮が心に染みながらも、だからこそここで頑張らなくては、と私は思っていた。

 私の願いがかない、三陸沿岸に出先が置かれたのは、復興庁が発足した翌年になってからだった。

(つづく)

研究員プロフィール:熊谷 哲☆外部リンク

 

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