2014年05月01日 公開
2022年12月08日 更新
《政策シンクタンクPHP総研 研究員コラムより》
4月も半ばを過ぎた頃になると、避難所をまわっていても地域再生と生活再建の話題が中心となることが増えてきた。その方向性としては、もともとの地区内の高台に場所を移して再建したい、浸水区域内で再び津波に襲われる恐れがあっても元の場所に再建したい、地区にはこだわらず仕事や子どもの学校を考慮して新たな居を求めたい、という概ね3つのパターンに分かれていた。
建物の新築や増改築を制限する災害危険区域についての意見も、市町村単位というよりは地区の特性によって大きく異なっていた。中心市街地区や住宅地区・農漁村地区など地区形成の特徴による違い、丸ごと移転可能な高台の有無などの地理的条件による違い、それに大津波の被害を繰り返し受けてもその度に再生してきた歴史的経緯などによって、住民の考え方もまちまちだった。
なかには、昭和三陸津波やチリ地震津波の際にも、今回と同様に高台移転や低地への住宅建設見送りなどの機運が高まり、実際にそのような対策が施されたにもかかわらず、防波堤や防潮堤建設と相まって都市機能を集積しやすい平地、すなわち海岸の後背地が市街化してきた経緯から、そもそも災害危険区域を設けること自体に意味がないという意見も垣間見られた。
事業再開についても、具体的な意見がとても数多く耳に入ってきた。なかでも、基幹産業である漁業関係については、少しでも早く操業を再開したいという切迫した思いが伝わってきた。使用可能な漁港を早急に特定し、港湾施設全体のかさ上げ、がれきの堆積している港内の清掃、仮防潮堤や仮水門等の応急整備、製氷工場や大型冷蔵施設の整備を急いで欲しいと。とりわけ、海中のがれき撤去については費用負担をどうするか一切情報がなく、独力で作業している状況で、何とかして欲しいという漁家の方々の表情には切実なものがあった。
二重ローンの問題も、理屈以上に現実は厳しかった。区画整理事業によって最近新築された住宅や店舗が丸ごと流されローンだけが残った。災害危険区域になりそうで、現地での早期再建は望めなさそうだ。おそらく売却することができても地価は大きく下落するだろう。勤務先は事業再開のメドもたたず、収入を確保する道すらない。単にローンが残るだけではなく、三重・四重に苦しさがのし掛かっていた。
国の支援制度が見えてきたところでも、現場の使い勝手に合わないところが見え隠れしていた。雇用調整助成金の支給はありがたいが、社屋や敷地のがれき撤去や被災品処分などに従事することは認められないとの指導があり、人手が確保できず片付けがなかなか進まない。東北経済産業局からは集合店舗プレハブの建設に関するアナウンスがあったが、浸水地以外の適地はすでに仮設住宅等の予定地となっていて(なおかつ、それでも足りていなかった)、ニーズは非常に高いものの用地確保が極めて困難な状況にあった。
避難所を毎日まわり、被災者の方々の声を直接聞き、こうした情報を拾いながら官邸と対策本部に報告しつつ対策案を提起する。そうした日々が続く中、ちょっとずつ改善される状況に報われつつも、さすがに私も疲れを覚えていた。ひどい砂ぼこりが花粉症を悪化させているのはまだしも、悪夢にうなされてなかなか眠れない。仕事の最中にも、津波に襲われるまちや泣き叫ぶ人たちの映像が鮮明に浮かんでくる。
ちょっと無理をしたかな。役所も週一日は休日を取ろうという状況になってきたし、約ひと月、目一杯走り続けてきたから、ちょっと休ませてもらおう。このとき、まだ私は、心身が蝕まれつつあったことに気づかずにいた。
(つづく)
<研究員プロフィール:熊谷 哲>☆外部リンク
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更新:11月23日 00:05