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外交的利益を高める『パブリック・ディプロマシー戦略』

2014年04月17日 公開
2023年09月15日 更新

金子将史(政策シンクタンクPHP総研国際戦略研究センター主席研究員)

《政策シンクタンク PHP総研 研究員コラムより》

 歴史認識や領土問題にまつわる中国、韓国の宣伝攻勢を受けて、わが国でも対外発信強化の必要が叫ばれるようになっているのは自然な流れである。ただし、意味あるかたちで対外発信を強化するには、我が国や他国が実際いかなる活動を行っているのか、また望む効果を得るにはどのような活動が適当なのか、実態に即した議論が必要である。

 こうした背景からPHP総研では、日本、そして世界の主要国が行っているパブリック・ディプロマシーに関する研究プロジェクトを立ち上げ、このほどその成果をまとめた書籍『パブリック・ディプロマシー戦略-イメージを競う国家間ゲームにいかに勝利するか』(PHP研究所刊)を発刊した。2007年にも、今回と同じく外務省の北野充氏と私の編著による『パブリック・ディプロマシー-「世論の時代」の外交戦略』(PHP研究所刊)を刊行しており、本書はその続編にあたる。以下各章の執筆者と読みどころを簡単に紹介する。

 第1章は、編者の一人でもあり、かつて在米日本国大使館広報文化担当公使として日本のパブリック・ディプロマシーにとって最も重要な対米広報を担った北野充氏(現・外務省軍縮不拡散・科学部長)による、「パブリック・ディプロマシーとは何か」である。

 パブリック・ディプロマシーがなぜ重視されるようになっているのか、パブリック・ディプロマシーとはどのような活動を指すのか、近年どのような動きがあるのか等、パブリック・ディプロマシーについてのイントロダクションといえる章である。本章を読むことで、読者は以下に続く章を全体観を持って読み進めることができるだろう。

 「主張するパブリック・ディプロマシー」と「交流するパブリック・ディプロマシー」を車の両輪とする視点、政策とパブリック・ディプロマシーの相互浸透を強調する視点は、本章全体を貫く通奏低音にもなっている。

 

 第2章は、在日米国大使館の現役の広報・文化交流担当公使のマーク・J・ディビッドソン氏の手になる「ソフト・パワーからスマート・パワーへ」である。

 ディビッドソン公使は、オバマ政権で国務省のパブリック・ディプロマシー戦略の責任者を務めたこともある、この分野のベテランである。米国政府がパブリック・ディプロマシーをどのように理解しているのか、そして日本においていかに実践しているのかを知ることができる、貴重な材料である。パブリック・ディプロマシーは外交政策目標の達成と国益の推進を目指す戦略的なものでなければならない、という姿勢は日本にとっても示唆に富む。

 

 第3章は、英国セインズベリー日本藝術研究所の水鳥真美統括役所長による「力強い発信継続への英国の挑戦」である。

 水鳥氏は、かつて日本の外交官として活躍し、安全保障政策課長などを経て、2005-2008年には在英国日本大使館広報文化センター所長として日本の対英パブリック・ディプロマシーを担った。現在は民間の立場から日本と英国を文化交流でつないでいる。

 本章は、英国が2012年にエリザベス女王在位60周年(ダイヤモンド・ジュビリー)とロンドン五輪という大型イベントをパブリック・ディプロマシーにどう生かしたか活写している。2020年の東京五輪開催が決まった日本にとって英国の経験から学ぶところは大きい。

 

 第4章「ワシントンは中国パブリック・ディプロマシーの主戦場」を寄稿したのは、米国ヘリテージ財団の外国人初の上級研究員としてワシントンで活動中の横江公美氏である。

 横江氏は2007年の『パブリック・ディプロマシー』でも、米国の対中東パブリック・ディプロマシーについての章を執筆した。今回本章では、中国が同地で行っているさまざまな対米工作活動をとりあげ、それがワシントンでどう受け止められているかをレポートしている。

 

 第5章は、韓国外交部に属する国立外交院の金泰煥副教授が執筆した「韓国におけるパブリック・ディプロマシーの現況」である。

 金氏は前職で、日本の国際交流基金にあたる韓国国際交流財団の政策研究室長及び公共外交事業部長として、韓国のパブリック・ディプロマシーを推進した。

 韓国のパブリック・ディプロマシーは近年急速に体系化され、また厚みを増している。日本でも関心を呼んでいるものの、部分的に活動が紹介されているにとどまる。本章はその全体像を理解する上で役に立つ。

 

 第6章は、メディア事業全般でコンサルティングの第一線で活躍するアクセンチュアの古嶋雅史氏(メディアエンターテイメント統括マネジング・ディレクター)による「パブリック・ディプロマシーにおける国際放送とは」である。

 本章では国際放送のグローバルな最新状況についての見取り図が提示されており、国際放送をめぐる各国の戦略やポジショニングの違いを手に取るように理解することができる。幅広いデータに基づく包括的な分析で各国の国際放送を比較した本章は、国際放送に関心を持つ人にとって文字通り必読の文献である。

 

 第7章「ソーシャル・メディアの影響と活用」は、加治慶光氏の筆になる。

 加治氏は、名だたる民間企業でのマーケティング経験を買われて、出来たばかりの内閣官房国際広報室入りし、国際広報戦略推進官として日本政府の国際広報を担った。現在は、アクセンチュア株式会社チーフ・マーケティング・イノベ―ター、文部科学省参与をつとめる。

 本章は、パブリック・ディプロマシーにおいてソーシャル・メディアがどのように位置づけられるか検討したものであり、ソーシャル・メディアの活用という官邸広報にとっての新しい試みについて当事者ならではの知見を示している。

 

 第8章以下は日本のパブリック・ディプロマシーについて紹介していく。

 

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