2014年04月16日 公開
2024年12月16日 更新
《PHP総研 研究員コラムより》
子どもの自殺予防に関する文科省の会議において、自殺が起きたときの背景調査に関するガイドラインを見直すための議論が行われている。
自殺に関する背景調査は、不幸にも子どもがみずからの命を絶つことになってしまった背景や要因などを明らかにするために行うものである。
けれども事実の解明だけでなく、亡くなった子どもや遺族の思いを受けとめるように努めることも、調査に携わる者に求められる重要な役割といえよう。調査を進めるうえで、亡くなった子どもとかかわりのあった子どもや保護者、教職員の心情に配慮することも欠かせない。
従来のガイドラインには調査の大まかな進め方や配慮事項が盛り込まれているが、それだけでは十分とはいえない。各自治体が設置した調査委員会において具体的にどこが問題となり、それをどう判断したかの情報が盛り込まれていないからだ。
実施方法に関し、たとえば、アンケートや聴き取りを実施する際にどういった点に留意したか。聴き取りの対象者をどこまで広げ、順序や進め方についてどう判断したか。あるいは、事実認定を行う場合に証言者が1人しかいないときにそれをどう取り扱ったか。集めたデータをどのように分析し、報告書に記載したか。
さまざまな関係者の思いや調査者の判断が重なり合いつつ調査は進行し報告書は完成するが、報告書の文章だけではそうした調査過程の重要な部分が伝わらない。
そこで、各自治体の調査事例を分析する組織を国が設け、事例を収集するとともに報告書では伝えきれなかった部分を調査委員会の委員からヒアリングし、今後の調査に生かすことを提案したい。
大津市や品川区、名古屋市などいくつかの自治体で自殺に関する調査報告書がまとめられているが、いまのところ調査事例を収集・提供する国の組織は設けられておらず、それぞれの自治体が個別に事例を収集している。調査の実施方法が必ずしも定着していないため、実施方法をその場で考えながら調査を進めている自治体もあるのが現状だ。
調査委員会の委員に加え、可能な範囲で教職員などの関係者からもヒアリングを行い、調査の実施方法を事後的に評価することも意味があるだろう。実施方法や調査の進め方についての調査委員会の意図が関係者に的確に伝わっていたかを検証するためである。
遺族との信頼関係を築くために各自治体でどのように努力したかというのも大事なポイントだ。
新たなガイドラインにはすべての自殺事案を調査対象とするという方針が盛り込まれ、従来のガイドラインより踏み込んだ記述になるという。事実解明という側面からは評価できるものの、実際に調査をどこまで行うかについてはやはり遺族の意思が最大限尊重されるべきであり、時間をかけて丁寧に遺族と意思疎通をはかることが必要である。遺族とのコミュニケーションに関しても、これまでの事例から学ぶものがあるに違いない。
調査の実施方法のみならず、報告書が掲げる再発防止策の分析も望まれる。
神奈川県湯河原町の報告書では、なぜ教員がいじめに気づくことができなかったかを検証している。調査委員会は、「いじめの発見を困難とした要因」はあったものの、いくつかの場面で「教員たちがきめ細かく生徒の心情や内面的なことを聴き取ることができた可能性」があったと指摘する。
報告書が提言する再発防止策を分析することにより、学校現場で注意を要する課題の例を示すことができるはずだ。
児童虐待に関しては社会保障審議会の専門委員会において、自治体が作成した検証報告書の分析を行っている。同様に、中央教育審議会にも専門委員会を設け、自治体の報告書の分析に取り組むべきである。
各自治体での調査事例を今後に生かすため、国による積極的な対応を期待したい。
<研究員プロフィール:亀田徹>☆外部リンク
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更新:12月27日 00:05