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教育委員会改革に関する与党案の欠陥とは

2014年02月20日 公開
2023年09月15日 更新

亀田徹(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

 

 今国会での法案提出に向け、教育委員会制度の改革案を自民・公明がまとめようとしている。現時点では最終的な結論にはいたっていないが、報道されている与党案には大きな欠陥がある。

 与党案はおおむねつぎのとおりとされ、複雑でわかりにくい仕組みになっている。

1)教育行政の責任者は従来どおり教育委員会とする。

2)教育委員会とは別の組織として、自治体の首長を議長とする「総合教育施策会議」を新設し、教育行政の大綱的な方針を協議する。

3)教育長と教育委員長を統合して新たに「新教育長」を設け、「新教育長」が日常の教育行政を執行する。

 そもそも大津市で起きたいじめ事件で明らかになったのは、教育委員会制度の責任体制の不明確さである。

 現行制度では、教育委員会が教育行政を担う一方、首長には教育予算の権限があるというように、首長と教育委員会との間で責任が分散している。

 また、教育委員会の委員長および委員は非常勤であることから、常勤職員である教育長が事務局のトップとして実質的に行政を担っており、教育委員会の形骸化も指摘されている。

 こうした責任体制の不明確さを解決するために考えられたはずの改革案であるが、与党案には3つの問題がある。

 1つめは、教育委員会と首長との間で責任が分散するとの状況は変わらないという問題だ。

 教育委員会の見直しを検討した中央教育審議会において、大津市長は「一番問題なのは、大津市の中で大津市教育委員会と市長の権限が分かれているということであります」と述べている。

 現行制度の問題の本質は、教育委員会と首長との間における責任と権限の分散というわけだ。言い換えれば、それが解決しない限り、責任体制の明確化という制度改革の目的が達成されることはない。

 与党案では、教育行政の責任者を教育委員会としつつ首長にも一定の権限を持たせており、責任の分散は解決されていない。

 2つめは、首長が中途半端なかたちで関与することで、むしろ現行制度以上に責任の所在があいまいになるという問題である。

 現行制度では、前述のとおり、首長には教育予算の権限があるものの、教育行政についての権限はなく、責任が分散しているとはいえ首長と教育委員会との間で一定の役割分担がなされている。

 ところが与党案では、首長が教育行政に関する方針策定の協議を主導する。教育行政の責任は教育委員会にあるとしながら首長の関与を強めるのでは、どちらが責任者なのかがますます不明確になってしまう。改革の目的は責任体制の明確化であるにもかかわらず、これでは何のための改革なのかがわからない。

 しかも、首長が大綱的な方針の策定に関与することの実質的な効果もわかりにくい。

 これまでも教育行政の方針は作成されており、たとえばいじめ問題に関し、A市の方針には「いじめ、不登校、問題行動、児童虐待、自殺等の課題に対し、教育相談体制の整備を充実するとともに、未然防止、早期発見・対応に努め、家庭・地域や関係機関と連携し、組織的な対応ときめ細かな指導の徹底を図る」とある。

 このような抽象的な方針の作成に首長がかかわったとしても、形式的な関与にとどまる可能性が高い。いじめ問題に取り組むには、学校の情報を収集し、状況に応じて学校や教師に指導を行うといった日常的な対応のほうが重要だが、与党案ではそれは首長の権限に含まれない。

 3つめは、教育長と教育委員長の統合は現状追認に過ぎないという点だ。

 現行制度における教育委員会と教育長との関係はたしかに不明確である。だが、この問題はさほど重大ではない。実質的には、月に1~2回しか開催されない教育委員会のかわりに、常勤の教育長が権限を行使しているのが現実だからだ。教育委員が非常勤であるがゆえに教育行政の執行に支障が生じているわけではない。

 緊急時にも対応できるよう教育長と教育委員長とを統合するというのは、教育長が権限を行使しているという実態の追認に過ぎず、両者を統合したからといって教育委員会の機能が向上するものではないだろう。

 以上のとおり、与党案は現行制度の課題解決にならないばかりか、むしろより責任の所在をあいまいにするという大きな問題がある。

 子どもたちにとってよりよい教育を提供するためにはどのような仕組みがふさわしいか、与党案にこだわらずに幅広い議論がなされることを強く願う。

 <研究員プロフィール:亀田徹>☆外部リンク

 

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