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小中学校にも通信教育を認めるべき ― 国家戦略特区での導入も ―

2014年01月30日 公開
2023年09月15日 更新

亀田徹(政策シンクタンクPHP総研主席研究員)

《PHP総研 研究員コラムより》

 オンライン教育のMOOCs(Massive Open Online Courses)により、米国の大学を中心とする有名大学の講義を世界のどこからでも無料で受けられるようになった。MOOCsには東京大学や京都大学も参加し、授業の配信を行っている。

 インターネットを通じた遠隔教育が世界規模で進んでいる現状も踏まえ、国は、大学における通信教育の基準の改正作業を進めている。インターネット授業のみで卒業できる通信制大学の場合、本年4月から、校舎等の面積基準を満たさなくても大学の設置が可能となる見込みだ。

 高校の通信制においてもインターネット、テレビ、DVDなどを利用した遠隔教育が行われており、遠隔教育の実施による面接指導の一部免除も基準で定められている。近年、通信制課程の学校数は増加傾向にあり、多様な生徒が学ぶ場となっているのが現状だ。

 このように大学および高校では通信教育の仕組みが拡充され、通学か通信か、通信の場合もどのような方法で学習するかを学生・生徒が選択できるようになっている。

 一方で、小中学校では通信教育が認められていない。

 小中学校段階の子どもたちの状況も多様であることを考えれば、小中学校にも通信教育を導入し、子どもの特性に応じた学習形態を選択できるようにすべきだ。大学や高校と義務教育との違いはあるにせよ、学校に通学することが子どもたちの唯一の学習形態ではないはずだ。学校に合わない子どもたちは、フリースクールや自宅など学校以外の場で学んでいるという実態もある。

 学校教育法には「中学校は、当分の間、尋常小学校卒業者及び国民学校初等科修了者に対して、通信による教育を行うことができる」との規定があり、中学校での通信教育を認める余地があることがわかる。この規定は戦前の制度の経過的な措置として定められ、義務教育年齢を超えた人のみを対象として中学校での通信教育が行われている。

 これまでも、中学校における通信教育について、たとえば構造改革特区で実施するとの提案もあった。だが国は、「児童生徒と教師、あるいは児童生徒同士の人間的なかかわりを深め、児童生徒の社会性や豊かな人間性をはぐくむことが極めて重要」であるとして通信教育を認めていない。

 たしかに国がいうように子どもの社会性や人間性をはぐくむことは重要だ。しかし、友人関係をつくったり子どもに面接指導したりする場を学校だけに限定する必要はない。フリースクールや自宅など、その子に合った学習環境を認めるべきであろう。

 実は、通信教育に近い教育はすでに実施されている。

 不登校の子どもがインターネットを利用して自宅で学習を行ったときには、対面指導の実施など一定の条件のもとで学校の出席扱いとする仕組みが設けられており、年間約200人の子どもがこれにより出席扱いとなっている。

 この仕組みの問題は、子どもを「不登校」という枠内に位置づけることが出席扱いの前提となっている点だ。わざわざ「不登校」という枠をはめなくても、子どもがみずからの特性に応じて主体的に通信教育を選択できる仕組みとすべきだ。そうすれば、通学になじまない子どもを「不登校の子ども」ではなく「通信教育を受ける子ども」と位置づけることができる。子どもや保護者の精神的負担が多少なりとも軽くなるに違いない。

 全国一斉に制度化するのが困難であれば、構造改革特区で中学校の通信教育を導入してはどうか。通信教育の全国化あるいは小学校への拡大は、特区での実施結果をみてから検討する。

 あるいは、国家戦略特区法で政府に検討が義務づけられている「公設民営学校」の具体化とあわせて通信教育を導入するのもひとつの方法だ。

 自分の特性に合った学習形態を選択することが可能になれば、学校になじまない子どもであっても、安心して学習に取り組むことができる。学習形態を多様化してひとりひとりの子どもの力を伸ばすことは、社会全体にとっても積極的な意味があるだろう。

 子どもたちの学習機会を確保するため、小中学校への通信教育の導入を国に望みたい。

 <研究員プロフィール:亀田徹>☆外部リンク

 

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