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再生可能エネルギー政策に求められる対策

2013年07月09日 公開
2024年12月16日 更新

佐々木陽一(政策シンクタンクPHP総研地域経営研究センター主任研究員)

《PHP総研研究員ブログ2013年7月9日掲載分より》

 太陽光発電はバブル的な活況なのに対して、風力、地熱、小水力など他の再生可能エネルギー(再エネ)発電は蚊帳の外――。これが昨年7月にスタートした再エネで発電された電気を国が決めた価格で電気事業者が調達することを義務付けた固定価格買取制度(FIT)の評価である。資源エネルギー庁によると、2月末までに、設備認定された再生エネルギー発電の設備容量は約1300万kWに達した。その9割を10kW以上(非家庭用)の太陽光発電が占めたが、実際に発電を開始したのは約42万kWで認定量の4%に満たないというアンバランスが浮き彫りになった。なぜ、太陽光による「見せ掛けの普及」が進んだのか。その功罪を見ていくことにする。

 まず、「功」の面では、環境アセスメントなどの行政手続きが少ないことや稼働までのリードタイムが短いことが、太陽光発電の設備認定量を急増させた。一方、「罪」の面では、制度運用上の欠陥を衝かれた。具体的には、発電事業者が書類審査を昨年度中に済ませて、稼働から20年間の買取価格42円の権利だけを確保しておき、世界中で供給過多に陥っている太陽光パネルの値崩れのタイミングを見計らっていたり、42円での売電権利がついている土地を転売するブローカーまで存在するという。エネ庁は6月末に、運転開始予定日を大幅に過ぎた事業者を聞き取り、合理的な稼働遅れの理由がない場合には、認定を取り消すなどの手続きを取る方針を固めた。だが、抜本対策としては、太陽光発電に対する買取価格適用時期を設備認定時点から「運転開始時点」に変更するなどの改善が必要である。

 加えて、「買取価格」と「税制優遇」の見直しも課題である。第1に、買取価格の引き下げである。現在、太陽光発電設備の価格下落分は、発電事業者の“濡れ手に粟”の収益になっている。設備の価格動向に対応して、買取価格を機動的に見直す機会を設ける必要がある。第2に、悪徳発電事業者への税制優遇措置の適用除外である。政府は、6月に閣議決定した成長戦略に基づく2014年税制改正での法人減税策の柱として、減価償却費を一括して損金算入できる「即時償却」の導入を検討している模様だ。設備投資した企業にとっては、通常5年以上かけて損金算入する減価償却費を1年で計上できるので、投資した年度の法人税額を大きく圧縮できる。設備稼働遅れに合理的な理由のない発電事業者への税制優遇措置の適用は、二重の公的支援になるので除外すべきだ。

 価格と税制優遇で見せ掛けの普及が進んでも、稼働し、付加価値を生み出せなければ、再エネの成長は長続きしない。再エネにはいろいろな価値があるが、1つは、地域経済活性化に資することだ。欧米諸国では再エネ発電会社をさまざまな手法で助成し、各社が自国の再エネ発電設備メーカーから機材を購入、雇用を増やすというシナリオを描いた。だが、この戦略は崩れ去ろうとしている。欧米諸国では、中国製の安価な再エネ設備の輸入が増え、国内企業が経営破綻に追い込まれ雇用を喪失する事態が続発しているからである。FIT施行1年が経った今、先述の制度運用上の改善はむろんのこと、再エネ普及でどのように経済波及効果へ結びつけるのか。欧米諸国の轍を踏まない戦略を立てることもわが国には求められている。

研究員プロフィール:佐々木陽一>☆外部リンク

 

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