2013年02月20日 公開
2023年09月15日 更新
政権交代後、財政膨張が加速している。安倍政権は巨額の経済対策を投じる一方で、歳出削減にあまり踏み込んでいないように見える。参院選における得票のために公共事業費等の拡大が優先され、財政再建が後回しにされているのではないか。
安倍総理は、20年度までに国・地方における基礎的財政収支(プライマリーバランス、以下PB)の黒字化を実現すると今国会で述べた。この財政健全化の目標は「財政運営戦略」として菅内閣で決定されたものであり、政権交代を経て自公政権へ引き継がれたことになる。政府がこの目標を達成できなければ、国債等の信用力は大きく低下するだろう。
内閣府は「経済財政の中長期試算」において財政再建の難しさを昨年すでに指摘している。この試算では、消費者物価上昇率2%、名目経済成長率3%、消費税率10%というシナリオでも、20年度のPBは8.5兆円程度の赤字になる。安倍総理はこの前提と同様の経済目標を掲げているが、それを仮に実現したとしても財政を健全化できないということである。
さらに、試算の仮定が現実の数値より悪化してきている。例えば、来年度の税収は約48兆円と想定されていたが、実際には約43兆円となっている。また、試算では11・12年度の基礎的財政経費が71兆円程度に抑制されていたが、今年度の歳出は補正予算によって10兆円ほど拡大する。政府与党は10月に消費増税の最終判断をする際にも、景気のテコ入れをするために補正予算を編成する可能性が高い。
政府は財政再建目標の実現可能性を検証するとともに、内閣府の試算と現実の予算とのギャップを埋めるために、「財政運営戦略」を大幅に見直す必要がある。自民党は5年を一期とする中期計画を盛り込んだ「財政健全化責任法」の成立を目指すようであるが、この素案には予算削減策がまったく盛り込まれておらず、このままでは新法の制定は財政再建の先送りとして見なされかねないだろう。
自民党の総選挙公約には「民主党政権のバラマキ施策で水膨れした歳出について徹底した削減を行うとともに、国・地方の公務員人件費の削減、生活保護の見直し等、さらなる削減を断行します」と明記されていた。確かに、来年度予算案では公務員人件費の一時抑制や生活保護費の一部削減が行われる。しかし、自民党はバラマキと批判していた民主党政権の各政策を踏襲したまま、徹底した削減を行ってはいない。例えば、農家への戸別所得補償制度は「経営所得安定対策」に名称変更するだけであり、高校無償化もそのまま継続される見込みである。総選挙があり、本年度予算の見直しは不十分にならざるを得なかったかもしれないが、廃止を含めて検討すべき予算項目は他にもあるのではないか。
安倍総理が「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」という3本の矢に次いで、「着実な財政再建」を4本目の矢として放つことを期待したい。
<研究員プロフィール:宮下量久>☆外部リンク
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更新:11月22日 00:05