2011年02月16日 公開
2023年09月15日 更新
2月9日、高速道路の無料化社会実験区間の追加が発表されました。時間帯を問わず全車種対象に無料化されるのが6区間、夜間早朝のみトラックなど中型車以上を対象に無料化されるのが5区間となっています。この無料化の課題について、順を追って見て行きましょう。
まず、6区間の選定理由に疑問があります。北海道の道東道の無料化区間の延伸区間は、JR北海道と並行しており、無料化によって鉄道利用客の減少が予想されます。現に今年度の無料化社会実験の結果では、マイナスの影響が見られました。にもかかわらず、無料化区間に追加されたのです。マニフェストでは、社会実験の影響を確認しながら実施するとしているのに、マイナスの影響が出ていてもその点は考慮されていません。選定過程が不透明なのです。
不透明さは情報公開の面からも指摘できます。社会実験の結果は、国土交通省のホームページに公開されています。夏(実験開始後1ヶ月)の実験結果では、路線別に公共交通と渋滞の情報が示されていました。しかし、秋(実験開始後3ヶ月)の結果ではマイナスの側面の掲載がなくなってしまったのです。利用増や、一般道の渋滞緩和に関するプラスの結果は引き続き公開されているのに、マイナスの側面だけが公開されなくなった理由が分かりません。
無料化実験の中止の仕方にも疑問が残ります。実験結果からは、常時渋滞する区間として京都丹波道路や武雄佐世保道路などの10区間が示されています。渋滞による燃料消費増や時間損失増によって、利用者便益は減少します。費用便益分析の考え方からは、費用よりも便益が少ない場合に、その政策を実施する理由はありません。仮に地域の財源で無料化を実施した場合に、便益が費用を下回ることが地域の中で明確に認識されるなら、その政策は実施しないことになるでしょう。しかし、負担感を伴わない国からのお金で政策が実施されているために、多少の渋滞による時間損失に地域は目をつぶってしまうと考えられます。
国民は無料化区間をばらばらと拡大することを望んでいるわけではないのです。現在の無料化区間は高速道路総延長の2割に過ぎません。それ以外の8割の料金体系をどうすべきかがより重要なのです。
昨年12月24日に発表された国交省の基本方針では、麻生内閣のもとで導入された料金割引のうち、生活対策として行われている普通車休日1000円の継続は示されたものの、平日昼間3割引に対する言及はありません。この措置はこの3月末で切れるため、平日昼間3割引はなくなるかもしれません。時間帯によって割り引くという発想は、割引料金決定の一つの有力なアイデアです。さらにいえば、利用状況に応じて地域別に料金を変えていくことが理想です。
現在の案では、普通車について休日は1000円をすえおき、平日は2000円を上限料金とするようですが、これもおかしな話です。上限料金とは、上限以下では料金を利用距離に応じて支払うという点でのみ妥当です。上限以上にいたっては過度な利用を促進させます。料金負担感がない利用者の増加によって渋滞が発生することは、原因者負担や受益者負担の観点から問題があります。
一方、基本方針においては、貨物車について上限制を導入せず、現在の割引(大口多頻度、通勤・深夜など)を継続することが示されました。需要の弾力性を考慮しつつ、対距離課金を採用することが示されており、妥当な案であると言えます。本来なら、普通車においても貨物車のような対距離課金への転換が図られることが望ましいのです。
今、高速道路政策において本当に必要なことは、交通需要管理の観点で料金を決定する場合に、どのような料金設定が望ましいのかを示すこと、そのための財源をどうやって調達するのか、どういう優先順位で実施するのか、道路空間だけでなく公共交通や土地利用などへの影響をどう考慮するのか、といった検討を行うことなのです。いたずらに無料化区間を増やしていくのではなく、高速道路料金の全体像を早急に示す必要があります。
(2011年2月14日掲載。*無断転載禁止)
更新:11月23日 00:05