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教育再生実行会議が踏まえるべき前回の反省点とは

2013年02月05日 公開
2023年09月15日 更新

亀田徹(政策シンクタンクPHP総研教育マネジメント研究センター長)

 政府の「教育再生実行会議」がスタートした。いじめ対策、教育委員会改革、大学改革、6・3・3・4制の見直しなどが検討テーマである。いじめ対策については今月中、教育委員会改革は夏までに提言をとりまとめるという。

 第一次安倍内閣も「教育再生会議」を平成18年に設置し、同じように、いじめ対策、教育委員会改革、大学改革などを議論した。会議の提言を受け、学校教育法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地教行法)等を平成19年に改正している。

 たしかに、制度改正は実行された。けれども、その「改革」によって学校教育が変わったといえるだろうか。前回の「改革」は、実態をよく把握せず、制度をつくることに重きをおきすぎた点に問題があった。その典型例が、いじめに関する施策である。

 「教育再生会議」の第一次報告は、学校の状況を「公教育の機能不全」と表現し、いじめに対する指導の充実とともに教育委員会への国による関与の見直しを提言した。

 提言を受けて地教行法が改正され、「児童、生徒等の生命又は身体の保護のため」緊急の必要がある場合には教育委員会に対して文科大臣が指示できるとの規定が新たに設けられた。それまでは地方の主体性尊重の観点から大臣が教育委員会に指示する権限はなかったが、法的義務が生じる指示を行うことを可能とし、国の責任でいじめに対応しようという趣旨で規定が定められた。

 規定が適用される事例は、たとえば「激しいいじめ等によりまして生命身体の保護が明らかに必要な生徒がいるようなときであるにもかかわらず、教育委員会が何らの措置も講じないで、緊急の必要がある場合」と文科省は国会で答弁している。

 制度改正はいじめ対策として意味があったのか。

 最近においても重大ないじめ自殺事件が発生しているにもかかわらず、この規定は適用されていない。「児童生徒が亡くなられた後には適用は想定していない」ことが適用されなかった理由であると文科省は説明する。

 それだけでなく、そもそもこの規定の内容が実態と乖離していることが適用されない大きな理由だ。個別のいじめ事案について、文科大臣が教育委員会に対応を指示するといったケースは実際上考えにくい。文科省は児童生徒に関する情報を教育委員会経由で入手しているのであり、文科省が教育委員会以上に具体的な情報を得ることは通常ないからだ。現実にそくして議論すれば、規定適用の難しさに気づくことができたはずだ。

 にもかかわらず制度改正が行われたのは、実態から乖離した議論に基づいて改革が立案されたからである。前回の「教育再生会議」の報告を読むと、かなり強い調子で教育が危機的状況にあると述べている。危機感をあおるために教育の現状を否定しすぎたことにより、現状を考慮することなく問題の解決策を考え、結論をまとめてしまったのではないだろうか。

 改めていうまでもなく、いじめに対応する優れた実践を行っている学校は現実に存在する。そうした優れた実践を広げていくことがいじめ対応には必要だ。他方で課題を抱える学校に対しては、学校の個別事情を考慮しながら運営改善の努力を丁寧に促すことが求められる。教育委員会に対する指示権限を国に付与する制度改正を行ったからといって重大な事件を防げるものではないだろう。

 新しく設置された「教育再生実行会議」では、前回会議の反省を生かし、実態を把握したうえで現実的な方策を話し合うべきだ。実質的な意味に乏しい制度改正の提言ではなく、なにが子どもたちのためになるかという視点からの議論が望まれる。

<研究員プロフィール:亀田徹>☆外部リンク

 

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